
2025年、ジン(Zine)の売り上げが好調だという報道をいくつか目にしました。ジンとは、個人や小規模なグループが制作する自主出版物のこと。少ない予算で誰でもつくれることが大きな魅力ですが、そのため軽視されやすいのもまた事実です。しかし、小ロットの自主制作だからこそ、形や質感、レイアウトまで含めて作品世界にこだわることができる。さらに、商業出版とは異なる流通にあるため、検閲を受けにくく、より自由な表現を届けられる強みもあります。
ネットだけでは生みだせない、コンテンツとフォーマットによる相乗効果
日本では「同人誌」や「リトルプレス」と呼ばれることもあるジン。縮小傾向にある出版市場においても注目される存在になっているようで、ジンコーナーを設置する書店も増えてきました。つくる際には、印刷した紙を折ったりまとめたりホッチキスしたりと手間がかかりますが、製本したものをイベントで販売するなど、コミュニティを築く原動力にもなります。2025年1月に開催された東京の文学フリマには、1万人を超える来場者が集まったようです。
単にコンテンツを載せるだけならインターネットのブログなどでも可能ですが、ジンは手で触れられる紙媒体であることが大きな魅力。無限に拡大していけるインターネットの世界とは違い、一冊の全体像が把握でき、その中で内容が完結しています。質感を含め意匠を凝らすことができる面白さはもちろん、手作業で装飾をつけるなど、少部数だからこそ可能な工夫もある。そうした造本そのものを眺める楽しさも、ジンならではの魅力です。
私はジン制作の授業を受け持っています。学生のなかには、手芸の編み方を紹介するために、編み物でページをつくった人もいました。私自身、綴じを手縫いにして、ポンポンのような飾りをつけたジンを制作したことがありますが、50冊仕上げるだけでも大変でした。このように手間暇をかけ、限られた数のみをつくることで希少性が生まれます。制作時にナンバーを振るなどすれば、アートのコレクションに近しい感覚で楽しんでもらうこともできるのです。
私が2012年から10年間住んでいたアメリカでも、ジンの注目度は高まってきています。2025年12月には、英紙The Guardianで、シカゴの「ジンを折る会」の様子が報道されていました。アメリカでは、トランプ政権下で移民に対する監視や取り締まり、暴力が強まるなか、地元の有志が集まって政府の横暴に対抗する運動の一環として、検閲を受けずに発信しやすいジンの制作が意味を持ってきてもいます。出版社を通さず個人で制作できるため、タイムリーな情報を必要としている人に届けられるのも利点です。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
