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あなたが住む家は、あなたを地震から守ってくれますか

明治大学 理工学部 教授 平石 久廣

2018年も、マグニチュード6前後の大きな地震が国内で数回起きました。また、関東地方などでは、現在、いつ大地震が起きても不思議ではないともいわれています。たびたび大地震が起こる日本では、建物の耐震技術は世界で最も進歩しているといわれますが、それはどのような技術で、私たちの住宅にも応用できるものなのでしょうか。

高層建築ほど地震で倒れやすいというのは間違い

平石 久廣 一般に、高い建物ほど地震で壊れやすい、と思われがちです。確かに、地震による地面の揺れ動きを地震動といいますが、地震動のエネルギーは建物の重さによって入る量が変わります。だから、平屋より重い高層の建物の方が大きなエネルギーが入り、揺れも大きく、壊れやすくなると思われるのでしょう。

 しかし、実際に地震で被害が出るのは、近年では高層の建物よりも、平屋や2階建ての住宅の方です。なぜかというと、重い建物を揺するには大きなエネルギーを要するからです。

 例えば、平屋と、その10倍の重さの10階建ての建物があるとすれば、地震動によって入るエネルギーは10階建ての方が10倍の量になりますが、これを同じ程度に揺すろうとすると10階建ては平屋の10倍のエネルギーを要します。

 そのため、単純にいえば、同じ地震動によって変形するのは、平屋が40cmであれば、10階建ての建物も40cmなのです。つまり、地震による変形量は平屋であっても高層であってもほぼ同じということになります。

 一方、建物は一定の変形角(傾斜角)に達すると壊れますが、10階建ての建物にとっての40cmの変形は、倒れる変形角には達しない、いわば、たいした変形角(約1/100の傾斜角)ではないのに対して、平屋にとっては40cmの変形によって起こる変形角は10階建ての10倍(約1/10の傾斜角)となり、変形の限界を超えて倒れてしまうということになります。つまり、高い建物ほど地震で壊れやすいというのは、実は間違いであり、理論的には低い建物ほど壊れやすいのです。

 これを踏まえて耐震を考えると、低層と高層の建物では対応が異なってくることがわかります。

 昔は高い建物の耐震性については懐疑的で、大正時代に制定された市街地建築物法では、建物の高さは100尺(その後31m)に制限されました。特例によりそれ以上の高さの建物も建てられましたが、高さ制限が撤廃されたのは1970年です。

 その後、1995年に起きた阪神淡路大震災では、1981年以前の旧基準によった中・高層の建物の中間層が潰れるという現象が起きました。これは、ピロティ構造で起こる現象と同じだといえます。

 ピロティ構造とは、例えば、1階が壁のない大フロアになっているホテルとか、1階を駐車場にして、2階を間仕切り壁のある住居にする住宅などの構造形式をいいますが、こうしたピロティ構造の場合、壁のない空間は変形に弱く、その階だけでほとんどの入力エネルギーを消費し、そのため、その階だけが潰れてしまいます。

 すなわち地震入力エネルギーは相対的に弱い階に集中します。旧基準の中高層建物では構造的に中間層が相対的に弱いため、その階のみが崩壊したわけです。

 一方、現行の基準の高層建築では、建物全体を貫く大きな柱や、壁を入れる構造にしています。このような構造では特定の階だけの崩壊を防ぐことができます。つまり、中高層の建物は、地震動に抵抗して変形を抑えようとするのではなく、建物全体で揺れて、エネルギーを吸収する構造になっていったのです。

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