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複合化する天災に備える ―現代日本・防災への提言―

荒川 利治 荒川 利治 明治大学 理工学部 教授

ハイレベルな日本の耐震技術

荒川利治教授 「防災の日」である9月1日は、関東大震災が発生した日である(1923年)。10万人以上の尊い人命が失われたが、当時の記録を詳細に検証すると、天災の別な側面が見えてくる。関東大震災は、マグニチュード7.9の大地震であったのは確かだが、死者の多くは火災による人達だった。発生した火災が猛威をふるったのは、地震発生時刻が昼食時間と重なったこともあるが、能登半島付近に位置していた台風によって関東地方全域が強風に煽られていたためである。つまり、膨大な数の犠牲者の背景には、地震と台風の複合化した天災があった。また、時代は遡って、江戸時代の宝永年間に起きた富士山大噴火時にも、地震が発生しており被害を拡大した。このことは、3.11の東日本大震災でも指摘できる。マグニチュード9.0という巨大地震だったものの、地震動そのものによる被害(建物の倒壊等による死傷者)は限られたものであった。地震が引き起こした太平洋沿岸の津波にのまれ、多くの人が犠牲になったのである。いわゆる水害であり、地震と津波の複合化した天災が悲劇を生んだ。
1995年阪神・淡路大震災以降、市民の地震に対する防災意識は確実に高まってきたと思われるが、留意すべきことは、地震動そのものに加えて、地震によって引き起こされる天災、あるいは地震と同時に発生する別の天災への備えである。また、3.11の被害状況は、「地震で建物を倒壊させない」という、日本の優れた耐震技術を示すことができた。地震国である日本は、地震による被害を最小限に食い止めるために、建築物の耐震技術を進歩させてきた。日本の建築構造の歴史は耐震技術とともにあったといっても過言ではなく、世界トップレベルの技術を築き上げた。1981年に大幅に改訂され現在に至っている「建築基準法」も、耐震に関しては世界に範たる高い技術水準に整備されている。一方で、東日本大震災以降、顕わになった懸念すべき問題がある。

原発再稼働がはらむ危険性

 東日本大震災は原発の問題を惹起した。福島第一原発事故は、地震動で建物が倒壊したわけではない。大津波による海水の流入によって機能不全に陥り、その結果メルトダウンが発生、大量の放射性物質の漏洩を伴う原子力事故に発展したのである。そのことに危機感を募らせた政府は、国内の原発をすべて停止し、新たな安全・規制基準を作成し昨年施行した。新基準をクリアした原発が再稼働することになる。
新たな安全・規制基準では、原発の安全性担保のために、耐震基準を高くすることが示されている。つまり、「想定される地震動の規模」を高くして、それに耐えうる構造物であることが再稼働の条件の一つとされているのだ。果たして、これで安全が担保されるのであろうか。福島第一原発は“想定外”とされる津波に襲われた。更には「想定される地震動の規模」を越えた地震が発生し甚大な被害が生じた場合、それは天災とは呼べないだろう。原発に“想定外”があってはならず、安全に関する絶対の担保は困難である。さらに、国内原発のほとんどは海岸線に立地しており、常に津波に襲われるリスクがある。天災を人災にしないためにも、原発再稼働はもとより、原発の存在そのものをより慎重に検討すべきと思われる。

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