ジン制作を通じて磨くストーリーテリングの技術は、どんな分野でも役立つ
私がつくるストーリーはフィクションですが、自分が経験してきたなかから大事なテーマを見つけ、それを最も効果的に表現できる方法としてフィクションを選んでいます。『Nori』なら日本の子どもの日常を知ってもらうことで、日本が特別なおとぎの国ではないと知ってもらいたいのです。特定の場所のストーリーを通して、より大きな世界や普遍的な人間の感情について考えるため、これからもミニコミをつくっていきたいと考えています。
一つのストーリーをどうやって伝えるかという、いわゆるストーリーテリングの技術は、どんな分野でも役立つものです。私が担当しているジンやコミック制作の授業は理工学部の学生たちが対象ですが、研究発表においても、どこをハイライトにして、どうまとめるかといったストーリーを組み立てる力は重要になります。
私が授業で必ず伝えていることは2つあります。1つは、楽しく制作してくださいということ。嫌々つくられた制作物は、見ている側も楽しくありません。コミックであれば、写実的に描けているからといって感動するわけでもありませんし、子どもが描いたような絵ですごく感動することもあります。自分が楽しめるタッチで描くと、時間を忘れて集中もできるでしょうし、見る人も楽しめるものができると思います。
2つめは、そのストーリーで伝えたいことは何かを明らかにすることです。日本だと起承転結が必要だと言われがちですが、起承転結は物語を理解するための枠組みであって、ストーリーをつくるための“型”ではありません。事件が起こる“転”から始まり、実はこういう背景があったんだと時間軸を遡ってもいい。伝えたいことが伝わるのがいいストーリーです。研究発表でも、得られた結果から伝えたほうがいいのか、着手した動機から順を追って伝えたほうがいいのか、組み立て方によって説得力も聞き手の関心度も違ってきます。
自分の研究や仕事の内容だけではなく、どんな人にでも伝えたいストーリーはあると思います。モヤモヤしていること、傷ついたこと、トラウマとなっていることなどを、ジンにして人に伝えられると、前に進めることもあるでしょう。社会人の方でも、ぜひ試してみていただきたい。自分はアーティストじゃないからなんて関係なく、ジン制作を通して仲間やコミュニティをつくってもらえたら嬉しいです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
