研究の裏話「発芽しない種子」から芽吹いた新しい研究
教授陣によるリレーコラム/研究の裏話【10】
私の研究室では生きた植物を研究対象にしているのですが、思ってもみなかったことが新しい発見につながるということがしばしばあります。
植物のオートファジー(自食作用)とカルス形成の関係を研究するために、モヤシ状の茎を用意する必要があり、ある学生が暗闇でシロイヌナズナを育てようとしていました。ところが、種子がなかなか発芽しないのです。よくよく状況を聞いてみると、本来、シロイヌナズナを発芽させるにはある程度の光が必要なのですが、学生はそのことを知らずに種子をいきなり暗い環境に置いてしまったようです。実験は始まる前に失敗です。
けれど、ここで気になることがありました。暗闇で育てた際、播種時のわずかな光を感知して発芽する種子がある一方で、オートファジーが起こらない変異体の種子だけが全く発芽しなかったのです。このことを突き詰めて調べてみると、変異株では、ある特定の波長の光を感知して発芽する機構がうまく働いていないという新たな事実が判明しました。オートファジーが、ダメージを受けた光受容体を取り除き、その発芽機構を正常に保つ役割を果たしている可能性が見えてきたのです。
学生が本来の手順どおり種子に十分な光を当てて発芽させていても、また、発芽しなかった理由に疑問を持たずに終わっていても、この発見はなかったでしょう。ひとつの失敗が別の興味深い研究へと発展していった好例です。
失敗することが必ずしも良いこととは言えませんが、ただの失敗で終わらずに「なぜそうなったのか」を突き詰めることはとても大切だと感じます。私自身の体験ですが、学生時代に市販の酵素を使った実験がうまくいかず、もしやと思いメーカーに問い合わせてみると、酵素のラベルと中身が別物だったということがありました。与えられたものや他人の言葉を信用しすぎず、批判的に検証してみることも時には必要かもしれません。
先に挙げた実験以外でも、オートファジーが起こらない変異体を扱っていると「どこか通常とは違うな」と、ふとした違和感を抱くことがよくあります。そうした些細な違いを見過ごさずにいくことが、思いがけない新発見につながるのです。自分の「気づき」が「発見」へと昇華する瞬間というのは、何物にも代えがたい喜びです。こうした体験をした学生は、自然と研究の道に進んでゆくことが多いように思います。まさに研究の醍醐味と言えるでしょう。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
