市場に出回りはじめた「発酵熟成肉」
エイジングシートの利点は、まず、布に付いた胞子は10日ほどで肉を完全に覆い尽くすほど生育することです。その結果、3ヵ月かかっていたドライエイジングの熟成が、1ヵ月ほどで済むようになりました。また、布に付いた菌が肉を覆うことで、他の菌が生育するリスクが格段に減りました。つまり、ドライエイジングの最大の問題であった、熟成期間と安全のリスクが大幅に改善されたのです。さらに、熟成期間が短縮されたことで、削り取る肉の表面が薄くて済む、つまり歩留まりが高まるというメリットも見込まれます。
肝心の味ですが、プロの料理人にも良い肉だとのコメントをいただきました。食品の弾力を測定できる機械で調べたところでは、最初は弾力があり、一定のところで肉の筋繊維がブチッと切れるという数値で、これは上質なドライエイジングの熟成肉と同じような食感になります。研究者である私にとっては、この数値のデータが、エイジングシートによる熟成肉の特質を一番説明しやすいと思っています。
いま、パートナーの企業側では、「発酵熟成肉」というブランド名で販売を展開しています。いままで定義が曖昧だった熟成肉よりも、エイジングシートを使っていることが「発酵熟成肉」だという定義は、消費者にもわかりやすいと思います。2017年の秋の段階で、ファーストキッチンでは3種類の「発酵熟成肉 黒毛和牛バーガー」や、中日本エクシス株式会社が管轄する東名高速道路 港北パーキングエリア(下り)・名神高速道路 EXPASA(エクスパーサ)多賀(下り)のレストラン「近江多賀亭」では、「発酵熟成肉和牛ローストビーフ丼」や「サイコロステーキ」として商品化されています。研究の成果をこういう形で社会に還元していく営業力は、やはり企業の強みです。異分野とのコラボは、研究者にとっても興味深いものです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。