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高級熟成肉を身近なものにする!? 産学共同開発の「発酵熟成肉」

村上 周一郎 村上 周一郎 明治大学 農学部 教授

研究成果を製品に活かした「エイジングシート」

小笠原 泰  まず、彼の熟成庫にいる菌を採取したところ、すぐに肉の表面を覆う菌の目星がつきました。何年にもわたって使われてきた熟成庫には、この菌を含め様々な菌が生育しています。その中から目当ての菌を、自然任せではなく、人工的に一番早く肉の表面に生育させれば良いわけです。そこで、その菌の胞子の高濃度養液を作り、当初は霧吹きで肉の表面に吹き付けました。しかし、それではどうしても不均一になってしまいます。その後の製品化を考えると、誰がやっても同じように上手くいく方法でなければなりません。そこで目をつけたのが布です。実は、屠殺したばかりの肉を10日間置いておく際に、布を巻き付けます。それは、肉から肉汁が出てくるのを染みこませるためです。しかし、その布に毛カビから作成した胞子懸濁液を付けておけば、上手くいくのではないかと思ったのです。小さな肉に小さな布を巻くラボスケールでの実験は成功で、菌が肉の表面に一気に生え、熟成が進みました。大学の研究室での実験はこれで良いのですが、今回は産学協同研究で、最終的には製品にならなくてはいけません。実際の大きな肉を巻く大きな布に、染み渡る高濃度の胞子懸濁液を作ることができるか。その懸濁液に含まれる胞子がちゃんと大きな布に付くか。懸濁液に浸した布を乾かす際に熱をかけますが、菌の生育温度は高くても20度過ぎが限界なので、胞子は何度まで耐えられるか。製品として開発するための、こういった様々な問題をクリアするには、純粋な研究とは異なるアイデアやノウハウが必要でした。それでも、学生たちも興味をもって取組み、結果、実質的な開発期間は1年ほどで、おそらく世界で初めてのエイジング方法である、「エイジングシート」が完成したのです。

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