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街歩きがちょっとしたブームになっていますが、その中でも、作品の舞台や作家ゆかりの土地を訪れる文学散歩には愛好家が多いようです。それは文学散歩が、作品の魅力を知るきっかけになったり、すでに読んだことのある作品を新たな視点によって再発見し、見直すきっかけになるからだと思います。

作品の面白さを知るには文学散歩がおすすめ

松下 浩幸 私は本学の社会人講座であるリバティアカデミーで、「都市空間を歩く」という講座を毎年受け持っています。

 講座とは言え、いわゆる座学だけではなく教室の外に出て、作品や作家のゆかりの地を訪れることで、日本の近代文学を東京などの都市空間の視点から改めて読み直すというものです。

 この講座が目指しているものはいくつかありますが、私個人の想いとしては、この試みをもっと若い世代にも広めて、若者の文学離れという傾向をなんとかしたいということがあります。

 例えば、学生に1ヵ月にどれくらいの本を読むのかと聞くと、5割~6割がまったく読まない、2割~3割が一冊くらいという回答が返ってきます。これはどこの大学の学生に聞いても、だいたい同じです。

 さらに文学部の学生でなければ、文学史に残るような名作と言われるものはほとんど読んでいません。

 こうした文学離れの要因はいろいろあると思いますが、そのひとつは文学作品を活字で読むだけでは、なかなかそのイメージがつかみにくいからではないかと思います。つまり、映像世代の若者には活字だけでは物語世界のイメージが描けず、作品を味わう面白さが理解しにくいのかもしれないということです。

 そこで、活字だけでなく、その作品の舞台となっている街や場所を実際に訪れてみることで、作品世界をよりリアルに感じられれば、文学に対する新たな興味や関心を持つきっかけになるのではないかと考えています。

 例えば、夏目漱石に有名な『こころ』(大正3年)という作品がありますが、この作品の舞台である雑司ヶ谷霊園を訪れると、登場人物の死がリアルに感じられますし、また、そこには漱石自身のお墓もあるので、作家に対する興味もわいてきます。人の死を意識することで、作品世界のイメージをより鮮明にもてるようになると思います。

 そうした体験を通じて、文学作品をより身近に感じ、文学作品に対する興味が湧くことで、さらに他の文学作品を読むモチベーションへと繋がっていくことを期待しています。

 これは文学作品を都市空間の視点から読み直すという試みが持つ、大きな〈効用〉だと言えます。さらに、こうした文学散歩を重ねていくことで、文学愛好家のみなさんにとっても、作品に対する新しい認識やいろいろな気づきを生むきっかけになっていくと考えています。

 私がこのようなことを考えたのは、従来の文学研究が作家中心の研究であり、物語の舞台はただの背景とみなされ、作品を理解する上であまり重要視されず、ないがしろにされてきたという経緯があるからです。

 つまり作家の伝記をもとに作品世界を読み解いたり、登場人物の心情読解が議論の中心になっていたということです。文学愛好家のみなさんも、そうした視点から作品を味わうことが多かったと思います。

 ところが、そこに〈場所〉という視点から文学作品を読み解くという新たな方法を提唱した国文学者がいました。1970年代以降に多くの著作を発表した国文学者の前田愛氏です。

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