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「狂言」には、心安らぐ「笑い」がある

伊藤 真紀 伊藤 真紀 明治大学 文学部 教授

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2001年にユネスコ世界無形文化遺産に登録された能楽(能と狂言)。日本の伝統芸能として認められているわけですが、近年では、お笑い芸人の人たちが狂言をネタにしたり、狂言師と共演することもあり、若い世代からも注目されています。能楽とはどういう芸能なのか、あらためて考えてみましょう。

「笑い」をテーマにした演劇である狂言

伊藤 真紀 日本の伝統芸能というと、歌舞伎や落語を挙げる人は多いと思いますが、すぐに能楽(能と狂言)を思い浮かべる人は少ないのではないでしょうか。

 もちろん、現代に伝わる日本の伝統芸能は他にもたくさんありますが、今日、一般に向けて日々上演されている芸能の中で、能楽は馴染みが薄く感じられるのには、それなりの理由があります。歌舞伎や落語は大衆の中から生まれ、そのまま大衆文化として発展してきたのに対して、能や狂言は宗教儀礼に関わりつつ成長したのですが、室町時代に足利義満などの権力者に愛でられるようになり、江戸時代には武家の式楽(しきがく)という、武家政権における典礼用の芸能として定められたという背景があるのです。

 つまり、能楽は、近世において庶民にとって敷居の高い芸能であったという歴史があるわけです。

 能も狂言も、約5.5m四方の本舞台と、その斜め後方の橋がかりと呼ばれる通路で構成される能舞台で演じられます。

 能と狂言の違いですが、まず能は役者が能面をつけて、美しく雅びな装束を付けて、謡(うたい)や舞で主題を表現していきます(能面をつけない曲もあります)。登場人物は主に、神や怨霊、武士や貴人などで、人の悲劇や生死に関わるテーマが重厚に描かれます。

 一方、狂言のテーマは「笑い」です。やはり登場人物は多くなく、主人に仕える者(太郎冠者)や、その主人、農民、婿、嫁などの庶民で、大名や僧、山伏、神、鬼などが登場する曲(演目)もありますが、いずれも人間くさく、親しみのあるキャラクターとして描かれています。

 内容は、社会に生きる人々が日々の生活の中で出会う小さなドラマがほとんどです。ささいな失敗や小さな諍い、こどもっぽい見栄によって起こる様々な出来事や人間ドラマが描かれ、人々の笑いや共感を呼ぶのです。

 現在、狂言は約250曲のレパートリーがありますが、その中に、すべてのタイプの「笑い」が入っていると言われます。

 今日、人気の「お笑い」芸能の原点は、狂言の中にあるとも言えるかもしれません。

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