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「源氏物語」は批判精神に充ちた「硬派」の物語!?

明治大学 文学部 准教授 湯淺 幸代

2020年、新型コロナウイルスのパンデミックにより、ステイホームが求められたり、海外との交流が制限されたりしたことは、自分たち自身を見つめ直すきっかけにもなりました。「源氏物語」などの古典を読み直した人も多かったのではないでしょうか。そのとき、私たちは古典になにを見出すのでしょう。

権力に対する批判精神が根底にある「伊勢物語」

湯淺 幸代 平安時代の初期から中期にかけて成立した「伊勢物語」や「源氏物語」は、当時の貴族社会の恋愛模様を描いた物語と思っている人が多いと思います。

 でも、これらの物語の要素はそれだけではありません。そうした恋愛話の背景にある、現実との関係性が見えてくると、なぜ、こうした作品が千年以上もの時を経て、なお読み継がれているのかがわかってくると思います。

 例えば、現在の「伊勢物語」は、主人公のモデルとなる在原業平(825-880)の死後から、11世紀初めまでに成立したと言われていますが、作者はわかっていません。内容は、主人公の男の恋愛遍歴を中心とした一代記ですが、125段からなる短編集のような形になっており、登場人物の感情や思いが和歌で表現されていることから、歌物語と言われます。

 一方で、「伊勢物語」は古今和歌集の六歌仙の一人である業平の日記という言われ方もありました。しかし、今日では、多くの虚構が含まれているという見方が一般的です。

 例えば、実在の天皇である清和天皇(在位858~876年)の女御であった二条后(藤原高子)との恋愛話は、若い二人の禁断の恋として有名ですが、業平と二条后の実際の年齢差(17歳差)を考えると現実的ではありません。

 同じく、伊勢神宮の斎宮(伊勢神宮の祭神に仕える未婚の皇女、王女)との密通も有名な話ですが、生まれた子が高階師尚であるという伝承についても、事実とは思えません。

 これらは、美男子として有名で、歌の才能もあった業平らしいエピソードとして作られたのではないでしょうか。

 むしろ、私が注目する段のひとつに、「渚の院」(82段)があります。男たちで狩りをしたり、桜の下で宴をしたりする話で、男たちの親密な交流を描いています。

 その中心に惟喬親王がいます。文徳天皇(在位850~858年)の第1皇子でありながら、入内していた藤原良房の娘が男子を産んだため、皇位継承者になれなかった人です。

 実は、業平も平城天皇(在位806~809年)の孫なのですが、810年に起きた薬子の変で平城天皇の子孫たちは皇位継承の可能性を失い、後に臣籍降下します。つまり、権力から疎外された存在たちです。

 このような男たちが集って親愛の情を深める、美男子である業平をモデルに、高嶺の花である后や斎宮とのスキャンダラスな話が作られたのは、この時代に権勢を誇った藤原一族に対する反感と、その敗者側である人たちの鬱憤の思いに対する共感があったからではないかと思います。

 つまり、「伊勢物語」は、恋愛話やスキャンダラスな話を楽しむだけでなく、それを、明らかに業平とわかる男を主人公にしていることは、当時の人々の思いや批判精神を反映したものと見ることができるのです。

 実は、当時の貴族の男たちが集えば、本来は漢詩を読むところです。しかし、桜を楽しみ、和歌を詠い合う男たちを描くこと自体、当時の貴族社会の本流に対する反骨がそこにあると見えるのです。

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