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日本の主権者教育は、世界に40年以上遅れている!?

藤井 剛 藤井 剛 明治大学 文学部 特任教授

2016年から選挙権年齢が18歳に引き下げられたことを受け、文科省や総務省は、学校での「主権者教育」の推進に力を入れています。それは有意義なことですが、目先の投票率を上げることだけにとらわれた教育(それを「狭義の主権者教育」と呼んでいます)ではなく、主権者として自ら情報を手に入れ、分析し、自分の意見を構築し、それを発信したり行動したりすることが出来るような「広義の主権者教育」を充実させることが重要です。

18歳選挙権をきっかけに力が入れられ始めた主権者教育

藤井 剛 主権者教育の推進が議論されるようになった背景には、18歳選挙権があります。確かに、高校生で選挙権を得るということは有権者となることですから、それまでに「選挙の作法」などを学ぶことは必要です。

 例えば、若年層が投票を棄権する理由を調査すると、大きく分けて、「関心がない」、「面倒くさい」、「住民票を移していない」、「どこに投票して良いかわからない」、「自分の一票で政治が変わるとは思えない」の5つが不動のトップ5です。

 主権者意識が希薄であったり、そもそも投票の仕方がわからなかったり、各政党や候補者たちの主張がわからないことが「投票に行かない」、あるいは「行けない」理由になっているのです。

 実際、近頃の高校生と話をすると、彼らは非常に真面目です。すべての政党のマニフェストをきちんと理解し比較しないと、一票を投じることができないと思っています。

 逆にいえば、わかれば投票に行くのです。2016年の参院選前、全国の高校では、学校によって温度差があったにせよ主権者教育を行いました。その結果ですが、2016年の参院選では18歳の投票率は全国で51%でしたが、18歳の「高校生」の投票率は静岡県は81%、山形県は83%でした。

 つまり、ちょっとした教育や経験があるだけでも、投票所に行く壁はずっと低くなるのです。

 一方で、彼らはSNS世代などといわれ、様々な情報をマスメディアよりインターネットから得る傾向にあるのですが、それが不確かな情報でも鵜呑みにしてしまいやすいのも特徴です。

 すぐにわかったような気になったり、複数の情報を比較せず、ひとつの情報だけで判断したり。そうした傾向をあらためていくにはリテラシー教育が重要になります。

 つまり、彼らも思っているように、本来は選挙に際して各政党のマニフェストを取得し、理解し、比較し、そこから自分なりの判断する能力を身につけることが必要なのです。

 そうした能力を醸成するには、選挙の投票率を上げるための主権者教育ではなく、幅広い政治教育とともにアクティブ・ラーニングを行うことが重要です。それがリテラシーの獲得にも繋がっていくと思います。

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