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コロナ禍の人口移動で、都市のバーチャル化が進む?

川口 太郎 川口 太郎 明治大学 文学部 教授

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2020年、コロナの蔓延によって東京都の人口が他県へ流出していると言われます。しかし、データを検証すると、人口の大量流出といえる変化はないことがわかります。むしろ、情報化が進む社会構造が、コロナ禍によって加速したということの方が大きいと言えます。

大きな変動は見られない東京の人口移動

川口 太郎 コロナの蔓延によって、私たちの生活は大きな変化を余儀なくされました。三密を避けるためにテレワークが普及したこともそのひとつです。それによって通勤の必要がなくなったり減ったため、都市に住む必要が薄れ、地方への移住が増えているとも言われます。

 しかし、人口データを分析すると、そうした大きな変化が起きているわけではないことがわかります。

 東京の人口の移動を分析するにあたっては、まず、東京とはどこを指すのかを考える必要があります。とりあえずここでは、東京都に神奈川県、埼玉県、千葉県を加えた、いわゆる東京圏と、その中心部の23区・都区部に分けて考えてみましょう。

 東京圏の人口は、高度成長期以降、オイルショックやバブル崩壊、金融危機で一時的に落ち込んだことはあっても、ほぼ一貫して転入超過の状態にあり、それは今も続いています。長期的に東京圏への一極集中が続いていて、それに伴って東京は近県を郊外化し、都市圏を拡大してきました。

 一方、東京圏の内部に目を転じると、バブル期を経て1990年代半ばまでは、都区部の転出超過、近県郊外の転入超過が続きました。つまり都市圏の中心が空洞化し、周辺の郊外化が進む、いわゆるドーナツ化現象が生じていました。

 ところが1990年代の後半を境に、都区部の人口が転入超過に転じました。戦後長く減り続けてきた都区部の人口が増加に転じたわけですから、それは都心部の人口回復として大いに注目されました。

 その背景には、湾岸部を中心に都区部でのマンション建設が活発化し、住宅価格が手頃になったことがあります。それまで住まいを求めて郊外に転出していた人が、都区部に留まるようになり、結果として人口の流出が抑えられたものと考えられます。

 しばしば都区部の人口回復をもって都心回帰という言い方がされますが、それまで郊外に外向移動していた人口が、郊外から都区部に内向移動する人口の逆流が顕著になった、ということではないことに注意する必要があります。ただし、郊外での開発に注力していた資本が、都心部での(再)開発に目を転じるようになったという意味では、都心回帰という言い方はあるでしょう。

 2020年来のコロナ禍は、在宅勤務の増加をもたらし、地方圏への移住や郊外への住み替えが話題になっています。しかし今のところ、データからは人口移動の趨勢に大きな変化をもたらしたとは認められません。相変わらず、東京圏への一極集中と、都区部の転入超過は続いています。

 確かに2020年は、東京圏への転入者数が減りました。しかし、それは20歳代の若年者を中心に、進学や就職のために東京圏に転入する人が一時的に減少したものと思われます。一方、東京圏からの転出者数は増えてなく、東京圏から離れて地方に転出した人はそれほど多くありません。

 また、都区部からの転出者を見ると、0~4歳と30歳代・40歳代が多いのが特徴です。持ち家の取得を考える子育て世代が、2010年代以来、高騰する都区部の住宅を諦め、それに若干の在宅での就業環境を考慮して、より手頃な都区部周辺の郊外を目指して転出したと考えられます。

 しかし、コロナ禍がなんの影響も与えていないわけではなく、テレワークやオンライン・コミュニケーションが普及するきっかけになりました。

 それは、私たちの働き方や職住のあり方、そして、オフィスや都市のあり方を変えることにも繋がっていくのではないかと考えられます。

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