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2021.05.12

インクルーシブなミュージアムへ、博物館の進化が始まっている

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博物館には、好奇心を刺激する様々な出会いがある

 日本には約5700の博物館があり、年間来館者数は3億人近くになるというデータがあります。現在のコロナ禍で来館者は激減していますが、この数字だけを見ると、日本は博物館大国で、人々は年に2~3回は博物館を訪れているように見えます。

 その一方で、アンケートをとると、全体の約半数が過去1年間に博物館を利用していないという結果がでます。つまり、博物館によく行く人と、行かない人に明確に分かれているのです。

 博物館に行かない人の理由は様々でしょう。もし、堅苦しそうとか、難しそうと思われているのであれば、博物館は多くのものとの出会いや感動があり、好奇心を刺激する様々なことから学びが生まれる、楽しい場であることを博物館側は発信しなければいけません。

 現在、私は学芸員養成課程の学生とともに、知的障害の特別支援学校を中心に、博物館の出前講座の取り組みを進めています。

 知的に障害のある子どもたちは暗い館内が苦手だったり、声をあげて注意されたことから行きたがらなくなったり、そのため先生や保護者も連れて行きづらくなる場合が少なくありません。そこで、博物館の側から展示品などの資料を持って出向き、博物館の学びを経験してもらうのです。

 例えば、土器を見たりさわったり、トレーに敷きつめた砂の中から土器を発掘する体験をしてもらったりします。すると、子どもたちは驚きや喜びをそれぞれの表現で示してくれます。

 ストレッチャー型の車イスに寝たきりの子も参加されたことがあり、その子の手を持って土器を擦りつけてあげたところ、いつもと違う強い反応だと担任の先生が教えてくれました。土器にさわるという体験に興奮していたというのです。

 こうした出会いや感動、好奇心を刺激する様々なことを、知覚で体験できる博物館づくりが大切だと思います。博物館の楽しさ、学びはそこから生まれるはずです。

 博物館は公教育の場だと述べましたが、そこでの教育、学びは、学校とはちょっと違います。先生や教科書から教えられるのではなく、ひとりひとりが自らの興味と関心で自由に感じて、楽しみ、それが自分なりの学びになっていくのです。

 コロナ禍が少し落ち着いたなら、これまで博物館にあまり馴染みがなかったという人は、ぜひ、一度行ってみてください。事前知識など必要ありません。かまえずに、気軽に扉を開くと、心を震わすような印象深い出会いが、きっとあると思います。


英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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