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2020.10.07

数字が動く図やグラフになると、数学の世界が広がり始める

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ヨーロッパではコンピュータを使った数学の学習が進んでいる

 ヨーロッパの数学教育では、コンピュータを用いた実験や検証が授業のなかで有効に使われています。

 ひとりの人が手で計算をして結果を物事に落とし込んで判断できることは、自然と限られてしまいます。しかし、コンピュータでシミュレーションをすれば、様々な条件での実験や検証を行ったり、それを多くの人と共有したりすることが容易にできるようになります。コンピュータを用いた実験や検証をとおして、数学的な考え方を広げていくきっかけになるのです。

 簡単な例ですが、関数のグラフを描いてみれば、xの数値によってyの数値が法則的に変化することが視覚的にわかります。微分が接線の傾きであることを視覚化することも可能です。逆に、何かしらのデータが散布図のなかで一列に並んでいる場合、これを関数とみなすにはどのようにすればいいでしょうか。その方針を立てるのは人間が行いますが、関数で近似する実際の作業をコンピュータのソフトウェアがやってくれれば、人は計算の手間から解放され、データの持つ性質についての実験や検証に集中できるようになります。

 実際、新学習指導要綱のなかでも、以前にもまして高校の数学の授業にコンピュータを積極的に活用することが求められるようになります。これまでは「ICT(情報通信技術)教材で学習をしても大学入試に生かせない」という残念な理由によって、高校の現場でICT利用が後回しにされてきた現実があります。しかし、新しく始まる大学入試共通テストにおいては、社会事象と数学の関わりや数学ソフトウェアを利用した数学の考察について出題されることになり、高校でもこういった問題に対応することが必要になるでしょう。

 ヨーロッパではコンピュータを活用した数学の学習が、すでにかなり進んでいます。最も進んでいる国のひとつであるドイツでは、GeoGebra(ジオジェブラ)という学習用ソフトウェアが開発されています。このGeoGebraは、いまでは世界中で使われており、学習用ソフトウェアとしては最もシェアが大きいものになっています。

 GeoGebraはフリーソフトであり、誰もが自由に使えます。教材がクラウド上にたくさん用意されていて、数学の教員は、授業に合わせて必要な教材をインターネットからダウンロードして使うことができるのです。

 機能としては、手描きでは大変な図やグラフが簡単にしかも正確に作れるようになっており、しかも、ユーザーのマウス操作によって、作った図やグラフがリアルタイムに再計算されて変化するというインタラクティブ(双方向)性を備えていることが特徴です。

 例えば、3つの点を繋げると三角形ができます。その三角形の頂点のどれか1点をマウスでドラッグして自由な位置に移動させると、線が追随して、三角形の形も変形されます。タブレットパソコンを使えば、指先で、体感的に図形を変形させることができるわけです。インタラクティブ性により指の動きを通して数学を扱えることはシンプルに面白いですし、そうやって手を動かして図を変形できることにより、「数学を実験・検証する作業の大事さ」を感じ取ることもできます。

 ところが、GeoGebraは日本ではほとんど使われていませんでした。ソフトウェアの日本語版は以前からあったのですが、クラウド上で公開されている教材の表記がすべて英語だったからです。英語表記では、日本の高校の数学教材としては使いにくいわけです。(グローバル化の観点から、英語表記でもよいのではないかと思わないでもありませんが。)

 そこで、2014年ころから、私が日本語によるGeoGebra教材を開発しました。それを、数学教科書の単元ごとに整理し、ホームページに公開したのです。しばらくすると、国内の教育現場でも徐々に使われるようになり、都道府県レベル、全国レベルの定例の教員研修でも、GeoGebraを使った教材の実践報告をする教員が現れるようになりました。

 私が開発した小さな教材をクラウドからダウンロードして、現場の教員は自分の授業で使いやすいように手を加えることができます。改変したものをまたクラウド上にアップすることも可能です。これが繰り返され、GeoGebraを通じたICT教材のコミュニティーができあがっていきました。ホームページ公開という小さな工夫から、日本語による充実したICT数学教材の輪が広がっています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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