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使い捨て文化にはない豊かさがある、日本の漆器の文化

本多 貴之 本多 貴之 明治大学 理工学部 准教授

日本の国名の「ジャパン」は、漆器を指す言葉でもあることをご存じでしょうか。それほど、日本の漆器の素晴らしさに西欧の人たちが驚いたということなのです。その漆器が現代ではあまり使われなくなりましたが、近年、SDGsの拡がりとともに再認識されるようになってきています。

縄文時代から発展した日本の漆文化

本多 貴之 「ジャパン」が日本の国名であるとともに、漆器を指す言葉になったのには諸説あります。

 例えば、安土桃山時代の南蛮貿易で日本から多くの漆器が輸出されました。西欧の人たちは日本から来た漆器の素晴らしさに驚き、「シッキ」を「ジャパン」と言うようになったという説があります。

 西欧の人たちがそれほど驚いたのは、そもそもヨーロッパには漆の木がなく、したがって、漆が塗られた木製品のしっとりとした光沢を見たことがなかったからでしょう。

 それに対して日本では、縄文時代の遺跡からも漆塗り製品が出土します。それほど古くから、漆は私たち日本人にとって身近な存在だったのです。

 では、そもそも日本列島には漆の木が自生していたのかというと、実は、そうではありません。古い地層からは漆の花粉が発掘されないのです。漆の木が古くからあったのは中国大陸です。

 漆の木の葉のハプロタイプの型を調べた研究から、日本の漆の木は、朝鮮半島やその北部、また、中国の山東省辺りの型と同じことがわかりました。

 日本に近い、それらの地域の漆の木が、おそらく、複数回繰り返された交流によってもたらされたと考えられます。実際、福井県の鳥浜貝塚からは、約1万2600年前の漆の枝が発掘されています。

 その後、日本人は漆の木から樹液を採り、それを身近な道具などに塗布する技術を高めていきます。

 縄文時代初期の遺跡である北海道の垣ノ島B遺跡からは、埋葬品として漆が塗られた衣服が発掘されています。それは約9000年前のものであり、世界最古の漆塗り製品とされています。

 さらに、縄文時代の中期から後期の遺跡になると、北海道から関東にかけて、漆塗り製品が幅広く出土しています。

 縄文時代は土器作りの時代のイメージがありますが、実は、漆塗りも縄文時代を象徴する技術なのです。

 例えば、集落の家々を同心円の中心として、その周囲に栗やクルミなど、食用の実が採れる林があり、その外側には漆の林がある遺跡が発見されています。つまり、食用の樹木だけでなく漆の木も、縄文人は植林していたと考えられるのです。

 また、集落の中の一軒から未完成の漆器が大量に見つかった遺跡もあります。そこは、おそらく、漆職人の家だったのではないかと考えられます。その人物は、その村の一員だったのか、あるいは、漆の技術者集団がいて、各地を回っていたのではないかという説もあります。

 実は、木地を固めるために漆を一度吸い込ませ、その後、何回塗り重ねるか、といったような漆塗りの基本的な技術は、縄文時代に、すでにほぼ完成の域に達しています。

 それは、専門の技術者や職人がいて試行錯誤を繰り返したからこそであり、このような古代に、現代に通じるほどの技術に発展させたことは驚くべきことです。

 それは、日本が古くから木の文化の地域であり、湿度が高い気候のため、木製品を保護するために塗装の技術を高めたのではないかと考えられます。例えば、同じく木の文化があり、湿度の高い東南アジアにも漆塗りの文化があります。

 一方、漆の木が自生していたものの、陶器の技術の方が発展した中国は、気候風土が違っていたからかもしれません。

 ある意味、日本の風土によって、必要に迫られて発展した漆の技術は、さらに、蒔絵や金粉などの装飾技術を取り入れ、まさに、日本ならではの固有の文化へと発展し、西欧を驚かせる伝統工芸品を生み出すことになるのです。

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