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使い捨て文化にはない豊かさがある、日本の漆器の文化

本多 貴之 本多 貴之 明治大学 理工学部 准教授

後世に伝えたい漆文化

 先に述べたように、西欧には、南蛮貿易以降、蒔絵や金粉、銀鋲など、贅を尽くして作られた漆器が輸出されています。

 そのひとつに、イギリスの国立博物館であるヴィクトリア・アンド・アルバートが所蔵する「マゼラン・チェスト」という大きな櫃があります。1630~1640年に作られたものですが、2004年から2008年にかけて、その修復プロジェクトがありました。

 マゼランチェスト自身は産地同定までは行われておらず、基本的な性質(どの位劣化しているかなど)のみを分析しています。その際、このチェストに使われている漆の成分を調査するために用いられたのが様々な化学分析です。漆には産地によって固有の成分があり、熱分解分析すると、その特徴を捉えることができるのです。

 こうした化学分析によって、文化財が作られた当時の材料によって修復することが可能になるのです。逆に言えば、漆の産地が分析できても、そこで生産されなくなっていたら、貴重な文化財の修復が難しくなるかもしれません。

 実は、日本では、漆で作られた多くの仏像などもあるのです。その中には、国宝になっているものもあります。そうした文化財を後世に残していくためにも、漆文化を継承することは重要です。

 漆文化の衰退に危機感を持つ人たちによって、様々な活動が始まっています。そのひとつに、幼稚園や小学校に漆器を持って行き、食事に使ってもらう活動があります。

 漆器は口当たりが良く、軽くて、熱いものを入れても温度が伝わりにくく手で持つのが楽になるので、子どもたちにも好評のようです。

 また、漆は塩水にも強いことから、サーフボードに塗っているオーストラリア人のサーファーもいます。こんなに良いものがあるのに日本人はなぜ使わないのか、と言われ、漆職人は答えに窮したそうです。

 皆さんも、食器などを買うときに漆器を選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。漆器を使ってみると、江戸時代の庶民がしていた暮らしは、思いのほか豊かな生活だったと感じられるのではないかと思います。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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