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数字が動く図やグラフになると、数学の世界が広がり始める

明治大学 総合数理学部 教授 阿原 一志

社会人も、数学的思考法を身につける良い機会

 私は、このGeoGebraとは別に、PointLineという作図機能に特化したソフトウェアの開発も行っています。GeoGebraがあるのになぜ別のソフトウェアが必要か?とお思いでしょう。実は、作図に限って言えば、作図の作法や技法といった座学が優先し、GeoGebraで正しい作図をしようとするためには、正しい前提知識がないと、三角形の外接円ひとつ描けないのです。高校生が「作図で実験・検証する」ためにはこの点が障害になっていると感じていました。

 最初に三角形が与えられたとして、その外接円を従来方法で描くには「垂直二等分線」といった「別の知識」が必要です。教科書にもそのように説明されています。しかしそれでは「外接円を実験してみる」ことができません。このPointLineでは、三角形と円とを最初に自由な位置に描き、「円が頂点を通る」という条件付けを後から追加することが可能です。この条件付けを三角形の頂点ごとに行えば、「ただの円」が「三角形の外接円」になります。

 従来の作図学習との違いがお判りでしょうか。この作図の発想は、これまでの数学教育では全くありませんでした。そもそも数学とは積み上げ系の勉強体系であって、お試し的な実験をしたりするものとは思われていなかったのです。

 三角形の外接円を作図するには、「垂直二等分線を用いてかくかくしかじか」と、上意下達ともいえるような知識の羅列から始めなければいけませんでした。(このことが数学嫌いを生んでいるともいえます。)これでは「自由な実験や検証をとおして思考力を養う」ことになりません。作図学習において、すべての三角形には外接円が存在することや、その円の中心(外心)を求める法則を実験により発見するICT教材のためにはGeoGebraですらまだ不足なのです。

 PointLineを高校の研究授業で使ってもらったところ、作図の自由さに生徒たちは面白がり、自分たちで作図の裏技を編み出したりし始めました。紙の教科書だけで説明している従来型の授業との違いは歴然としています。知識を受け取ることに終始していた授業のなかに、自分の思い通りに実験・検証してみることができるようなICT授業を取り入れることにより、生徒たちがオリジナルな工夫をしたり、それを表現したりする機会が得られるのです。

 仕事や身の回りのことや、ぼんやりと疑問に思うことや、社会で問題になるような事柄の関係性など、数学という道具を使うことにより、試行錯誤を通して論理的に考えることができるようになることがたくさんあるのです。数学は決して計算の知識や技能だけの学問ではなく、実生活の問題解決のために発展してきた学問であり、自由に実験・検証する勉強でもあるのです。

 大学入試センター試験が大学入試共通テストに代わり、社会の事象を数学として解決するような問題が出るようになります。さらに、数年後には新しい学習指導要領で学ぶ世代が社会に入ってきます。いま、社会人であるみなさんも、社会のできごとを数学的な原理で考える習慣を意識することが大切です。

 そのためには、コンピュータとのよい関係性を築くことも重要です。コンピュータと数学を使うことにより社会の事象を実験・検証できることを意識しましょう。コンピュータを文書作成の道具としてだけでなく、インターネットから学びのきっかけになるコンテンツをさがしたり、そこに現れる数学を勉強しなおしたりするのもよいと思います。

 最近は人工知能によって、経験則や感覚に頼りがちな日常の意思決定を行えるようになってきました。そもそも人工知能の中身は数学の塊みたいなものですし、単なるブラックボックスとして使うのは好ましくありません。高校で習うような数学に興味をもって、人工知能の成り立ちにも思いをはせていただくだけでも、モノの見え方は劇的に変わるものと思います。

GeoGebraやPointLineも体験してみてください。みなさんのお子さんや、これから社会に出る世代が、おそらく使うであろう教材に触れることができます。例えば、三角形の外接円の仕組みを実感することができる教材のページをご紹介します。画面上で、頂点をマウスで動かせることを確認してください。
https://www.geogebra.org/m/em4pWN9C

PointLineは、目下開発研究中のコンテンツですが
http://www.aharalab.sakura.ne.jp/PointLine/
からダウンロードすることができます。興味を持っていただけると幸いです。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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