2024.03.21
- 2020年2月21日
- リレーコラム
#4 デジタル課税は私たちに関係ない?
大野 雅人 明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授消費者が税を負担するか、国の税収減となるか
デジタル課税は私たちの生活にどのように影響するでしょうか。
まず、フランスなどが導入した、巨大プラットフォーマーの売上金額に一定割合(例えば3%)で課税するというデジタルサービス税が導入されると、企業は税金分を価格に転嫁しますから、消費税と同じように、一般消費者にとっては負担増になります。
最近では、グーグルが、2020年1月から導入されるマレーシアのデジタルサービス税(6%)を消費者に転嫁すると公表しました。
他方、現在OECDで議論されているデジタル税は、売上税であるデジタルサービス税とは異なり、海外で事業を展開している大企業の所得を国家間で再配分するためのルールです。
OECDの統一アプローチのデジタル税が導入されると、まず、各国の法人税収が増減することとなります。これはゼロサム・ゲームなのです(このために国家間の合意を得ることが難しいのです)。
また、高い技術力で製造した優れた製品を外国で販売している日本企業にとっては、みなし利益率を何パーセントに設定するかにより、デジタル税の適用対象となってしまう可能性があり、適用対象となれば、所得を市場国の子会社に配分することが求められるでしょう。
そうすると、企業にとっての税務処理の負担が増加しますが、それだけでなく、日本国の税収が減りますから、間接的な形で、私たちの生活に影響が及んでくることとなります。
このほか、国によるルールの解釈の違いのため税の二重取りのようなことが生じた場合、企業はどこに救済を求めたら良いのかなど、政府にとっても企業にとっても、考えなければいけないたくさんの課題があるといえるでしょう。
ところで、デジタル課税の議論の発端は、巨大プラットフォーマーが膨大な個人情報を集積し、それを利用することで巨額の利益をあげていることでした。
このことは、課税に関する問題だけでなく、「個人情報保護の問題」、「差別的取り扱いが行われる懸念」、「競争法違反の懸念」、「情報操作の問題」、「既存小売店の廃業による生活環境の変化」など、様々な問題をともなっています。
課税のルールが大変革されようとしていることも含めて、いま、私たちは、社会の在り方の大きな変動期にいるということでしょう。
私たちの個人情報を含む膨大な量の情報がネット上でやりとりされ、管理され、販売されている現在の世界の中で、私たちはどのような社会をつくりたいと思い、どのような社会にはしたくないと考えるのか、議論を重ねていくことはとても大切だと思います。
#1 デジタル課税とは?
#2 なぜ、デジタル課税法はなかなか決まらないの?
#3 デジタル課税は世界統一ルールになる?
#4 デジタル課税は私たちに関係ない?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。