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#2 なぜ、デジタル課税法はなかなか決まらないの?

大野 雅人 大野 雅人 明治大学 専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授

巨大プラットフォーマーの課税には新たな概念が必要

国境を越えて行われる電子商取引の発展にともなって、課税をどのように行うべきか、についての見直しの議論は、1990年代から始まっています。

しかし、1998年のOECDオタワ閣僚会議で、電子商取引において「PEなければ課税なし」という従来の原則を維持することが確認されました。「ただし、サーバーはPEとする」というルールもこの時にできました。

状況が変わったのは、2012年に、アップルやグーグルなどが行っていた節税スキームが発覚したことです。

それは、アップルの場合、アメリカ法人であるアップルがアイルランドに設立した子会社が、アメリカとアイルランドの法律の違いによって、どちらの国の法人にもならないことになり、どちらの国からも法人税を課税されない、というものでした。

2009年から2012年までの間、この子会社には約3兆円もの所得があったのに、です。アップルは米国議会の公聴会で批判された際に、「当社は、すべての国の税法を完璧に遵守しています」と反論しました。

確かにその通りでしたが、それは逆に、現行の国際課税ルールを見直すべきだという議論に拍車をかけたのです。

グーグルの場合は、アイルランド子会社とオランダ子会社を使った「ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ」と呼ばれる複雑な租税回避スキームが批判を浴びました。

プラットフォーマーに対する課税問題は、2012年から始まった、OECD/G20での「税源浸食と利益移転」対抗プロジェクト(BEPSプロジェクト)でも、他の多くの国際課税問題とともに議論・検討されましたが、2015年の同プロジェクトの最終報告書では結論が出ず、議論を2020年まで続けることとされました。

それは、新たなルールを早くつくりたいフランスやイギリスに対して、自国の企業を狙い撃ちするようなルールづくりに反発するアメリカ、外国法人の子会社があることによって雇用が確保されるなどのメリットがあるアイルランドなど、各国の利害が一致しなかったからです。

その後、EUにおいても同様の議論が続けられ、2018年3月に、「EUデジタル税指令案」と、「EUデジタルサービス税暫定措置案」が公表されます。

前者は、プラットフォーマーが提供するプラットフォームで、ある国での収益・ユーザー数・契約数が一定数値を越えると、そこに「重要なデジタルプレゼンス」があるとし、それをPEの概念に含めるという考え方です。

すなわち、プラットフォーマーのユーザーがいる国は市場国となり、それによって物理的な拠点がなくとも課税が可能となる、という案です。

ついに、100年以上もの歴史があった国際課税ルールが大きく変わる変換点を迎えたのです。

しかし、この案も、後者のデジタルサービス税暫定提案も、EUの全加盟国の一致が得られず、導入に至りませんでした。そこで、EUは、OECDでの議論を待つことにしたのです。

しかし、業を煮やしたフランス、イタリア、スペイン、イギリスなどが、EUデジタルサービス税暫定提案をベースとして、国内法によるデジタルサービス税の導入を表明し、2019年7月、フランスが実施に踏み切ります。

それは、プラットフォーマーに対し、フランス国内での広告やデータ売買によって得た収益に3%の課税をするという内容です。これは一種の売上税といえます。

アメリカは猛反発しましたが、フランスが、OECDによって新たなデジタル課税ルールが決定されればデジタルサービス税を撤廃するという約束をして、一応収まったはずでした(しかし、2019年12月上旬には、米国が、フランス産ワインやチーズ等に対して、100%の報復関税を課すことを検討していると発表しました。)。

このフランス等のデジタルサービス税導入の動きは、OECDの議論に拍車をかけることになったと思います。放っておくと、各国が各国独自のデジタルサービス税をどんどん導入しかねないからです。

アメリカも反発ばかりしていられず、自国の企業だけが不利にならないルールづくりを目指すようになります。実は、このことが日本の企業も関わる事態になっていくのです。

そして、OECDの中間レポートの公表や公聴会を経て、2019年10月、Unified Approach(統一アプローチ)と呼ばれる、OECDの新しいデジタル課税案が提案されたのです。

次回は、OECDのデジタル課税案について解説します。

#1 デジタル課税とは?
#2 なぜ、デジタル課税法はなかなか決まらないの?
#3 デジタル課税は世界統一ルールになる?
#4 デジタル課税は私たちに関係ない?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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