
OECDは2020年中の各国合意を目指す
2019年10月にOECDが提案したデジタル課税案は、移転価格税制と定式配分制度を基にした考え方です。
例えば、多国籍企業の親会社と子会社が、それぞれ税率の異なる国で所得をあげた場合、税率の低い国にある子会社の方に多くの所得を配分しようとするケースが多くあります。
そのような所得移転を防止するため、税務当局は、まず、親会社と子会社の所得を合算し、その会社の同業他社の一般的な利益率から通常の利益を算出して取り除き、残った利益(残余利益)をなんらかの基準で親会社と子会社に配分し、それぞれの国で課税することがあります。
これは、移転価格税制では「残余利益分割法」と呼ばれています。OECDは、この利益分割法を基に、3種類の課税を提案します。
まず、Amount Aでは、多国籍企業グループ全体の所得を合算し、一定のみなし利益率を用いて、みなし通常利益(ルーティン利益)を算定します。
それを合算した所得から差し引き、残った額を残余利益とします。この残余利益のうちの一定部分をみなし残余利益とし、これを各市場国に、各国の売上高に応じて機械的に配分する(定式配分)、というものです。
Amount Bは、基礎的な営業や販売活動を行っている拠点がある市場国は、一定の課税を行えるというものです。
例えば、プラットフォーマーが、ユーザーの少ない国にサーバーを置いた場合でも、その国は課税をすることができるわけです。
そして、Amount Cは、Amount Bで規定されている基礎的な活動以上の経済活動が行われている国は、さらなる課税ができるというものです。
このOECDの新提案には、実は、自国のプラットフォーマーばかりが狙い撃ちされることに反発するアメリカの意向が反映されています。
もちろん、これは、まだ提案の段階で、決定までに詰めなければならないことはたくさんあります。
例えば、みなし利益率を何%に設定するのか、各市場国への配分は売上高に応じるだけで良いのか、などです。そして、このルールを具体的にどのように決めるかによって、海外に進出している日本の大企業もデジタル課税の対象となる可能性がでてきたのです。
現在、OECDは、OECD加盟国だけでなく、発展途上国も巻き込んだ大がかりな議論を進めており、2020年中の各国合意を目指しています。それは、意義のあることだと思います。
100年以上、基本的な考え方として維持されてきた国際課税のルールが、電子商取引やグローバル経済の進展に対応するため、本格的な議論を始めて以来、わずか数年の短い間で、多くの国を巻き込み、全会一致を目指して大きく変革されようとしているのです。
私たち国際課税の研究者や実務家は、不変のもののように思われていた大地に、いままさに大きな亀裂がはいり新しい岩山が現れる瞬間を見ているような気持ちで、議論の行方を見守っています。
次回は、私たち一般生活者への影響について解説します。
#1 デジタル課税とは?
#2 なぜ、デジタル課税法はなかなか決まらないの?
#3 デジタル課税は世界統一ルールになる?
#4 デジタル課税は私たちに関係ない?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。