
AIの機械学習に必要不可欠なセンサーデータ
センサー+ネットワークにより、様々な種類のデータが大量に集めることができるようになります。システムの「ロボット化」の次のステップは、センサーデータをうまく処理する、人間で言えば脳に当たる「考える部分」になります。
その中心になるのが、人工知能、いわゆるAIです。特に大量のセンサーデータや画像から、なんらかの知識を獲得する機械学習を使ったシステムが盛んに研究されています。
例えば、オープンポーズという、画像から人間の姿勢を取得するシステムがあります。たくさんの画像から人間の関節の位置関係をディープラーニングにより学習し、その結果を用いて複数の人物の関節の位置やその連結の様子を可視化します。これを、画像による顔認証システムと組み合わせれば、カメラで撮影さえすれば、誰がどこでどのように動いていたのかを、すべて知ることができるようになるでしょう。
また、時々刻々と状況が変化する実世界でロボットが自律的に動作するには、そのような変化に適応的に対応できる能力が必要です。開発者が、そのような複雑な実世界のすべての事象に対応できるような、すべての動作ルールをプログラムすることは現実的には難しく、これも何らかの学習に基づいて、ロボット自身がそのような能力を獲得していくことが期待されています。
そこで、ロボットはたくさんのセンサーデータから実世界を模擬した様々な状況をコンピュータで再現して、強化学習という手法により、試行錯誤して状況に応じた適切な行動を学習していきます。
私の研究室でも、屋外の公共空間での移動ロボットの自律走行を、あらかじめ開発者が決めた走行ルールではなく、ロボットが実世界の状況を頭の中で再現しトレーニングして、走行ルールを自ら獲得するためのシステムの研究をしています。狭い通路で人を避けて走行したり、混雑した環境で人の流れに乗って走行したりする動作を実際に学習により獲得できています。
これらは、システムのロボット化において、センサー+ネットワークの次のステップである、コンピュータによる考える部分の一例です。これでシステムのロボット化を技術的には進められますが、注意しなければいけないこともあります。
高度にロボット化したシステムが、私たち一人ひとりに寄り添って、状況に応じて各々が欲しいサービスを提供してくれるようになるには、センサーにより個人の行動データをたくさん収集し、それを学習に使っていくことになります。その結果、システムが私たち一人ひとりの行動や嗜好などの個人情報を完全に把握するのです。こう聞くと抵抗を感じられる方もおられることでしょう。
次回は、センサーデータと個人情報収集について解説します。
#1 最新ロボットは人型じゃない?
#2 私たちの身近に広がるセンサー
#3 センサーデータを使ってロボットを賢く!
#4 ロボットは個人の情報を収集している?
#5 センサーデータって誰のもの?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。