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災害に強いまちづくりのために ―「事前復興」からのアプローチ―

中林 一樹 中林 一樹 明治大学大学院 政治経済学研究科 特任教授

阪神・淡路大震災から20年、東日本大震災からもうすぐ4年が経つ。この間、国民の防災意識は高まり、行政も様々な取り組みを展開している。だが、防災だけでは、災害には勝てない。私の研究テーマ「事前復興」から新しい防災まちづくりを紹介したい。

阪神・淡路大震災と東日本大震災の復興支援

中林一樹特任教授 阪神・淡路大震災(1995)と東日本大震災(2011)は、特筆すべき戦後の二大災害である。初めて震度7を記録した阪神・淡路大震災は都市型災害で、強い地震動がビルや住家、高速道路など都市施設の倒壊、木造密集地域の火災などを引き起こした。東日本大震災では巨大津波が膨大な建物被害と犠牲者をもたらした。
阪神・淡路大震災が発生したとき、私は東京都の委員会のメンバーで区部直下地震の被害想定調査をまとめていたが、被災地に赴き、その教訓として「復興に直後から取り組んでいた阪神・淡路大震災だが、その5倍以上と想定される区部直下地震の被害を迅速に復興するには事前に復興対策を準備する必要がある」と提言した。これが、東京都の事前復興の取り組みの発端となった。
東日本大震災が発生したときは、奇しくも防災シンポジウムに参加していて、帰宅困難者となった。その後、学会の調査などで被災地の惨状を目の当たりにし、復興に向けた支援活動を開始した。
広域自治組織として組織されていた「関西連合」は、東日本大震災の自治体を支援することとなり、兵庫県は宮城県を支援した。私は兵庫県の「人と防災未来センター」上級研究員も兼任していたことから、南三陸町の復興計画策定委員会副委員長として、復興支援に取り組むことになった。他方、被災地調査では明治大学OBが各地で活躍していることに気付いた。そこで、2011年4月明治大学に移ってから、明治大学としての復興支援の取り組みを提案させていただいた。そして、岩手県大船渡市、宮城県気仙沼市、福島県新地町と復興支援協定を締結することとなり、「明治大学東北再生支援プラットフォーム」を設立、大学としての多様な支援活動が現在も継続されている。

災害復興の合意とは、住民が復興の将来像を共有すること

被災者の生活復興感のグラフ 私は、東日本大震災に関する取り組みとして、大船渡、気仙沼、新地町で、被災者の復興に関する調査を2012年から毎年継続している。これは、被災者の「生活復興感」に現れる復興状況の経年変化とその要因を明らかにすることから、一人でも多くの市民が早期に安定した生活を送るための支援や公共施策を提案することを目的としている。被災者の復興感は、食生活が以前に戻り、仕事や収入が回復し、住宅再建の見通しが立ってくると高まることが分かった。食事の提供よりも自分で食事を作る自立支援や、仕事の再建が重要なのだが、被災者の生活再建は被災者間でも地域間でも差異が生じている。
その顕著な例の一つに、住宅再建の見通しと、沿岸部での「高台移転」の進捗の関係がある。新地町は3年目までに全て高台移転が同意され、2014年中に約7割の被災者が高台に住宅再建するなど、まちぐるみでの復興が進んでいる。それが実現しているのは、従来からコミュニティが強固だったことに加えて、集落ごとに集まって住民それぞれが要望を出し、話し合いをして進めてきたからだ。このワークショップは明治大学も手伝ったが、大事なのは、みんなが言いたいことを言ってから取りまとめていくことである。手間もかかり、まとまらないようにも見えるが、実は、こうした話し合いこそが、合意形成の早道であり、復興には不可欠な手段である。「合意」とは、どういうまちに復興するのか「まちの将来像」が共有できたということであり、法律の力や制度で合意形成できるものではない。「高台移転」が遅延している被災地では、住民同士の話し合いを十分にしていないケースが多い。

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