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災害に強いまちづくりのために ―「事前復興」からのアプローチ―

明治大学大学院 政治経済学研究科 特任教授 中林 一樹

災害による被害を想定しどう復興するかを考える

 私は、都市計画研究を基礎とした、防災や災害復興を研究対象としてきた。そのきっかけは、1971年に発生した山形県酒田市の大火である。10月末の夕刻に出火し、翌朝までに中心市街地25ヘクタールを焼き尽くした。鎮火から24時間後に、むっとする熱気と異様な匂いが立ち込める現地に私は立った。その衝撃は大きなものだった。「どんなに美しい都市でも、どんな住みやすい都市でも、一晩で消滅するようではいけない」。そんな思いから、災害に強い都市づくりとはどんな都市なのか、災害からどのように都市を復興すればいいのか、が研究テーマとなった。災害に強い都市づくりや被災地域の復興の進め方が研究テーマなので、私の研究対象は、今、そこにある都市であり、被災地域である。
永く東京都立大学にいたこともあって、これまで、東京をモデル都市に、防災や復興を含む震災対策研究を進めてきた。阪神・淡路大震災をきっかけに、首都直下地震から東京をいかに復興するのか、「事前復興研究」も東京をフィールドに取り組んできた。被害想定を基に復興対策を事前に考え、準備する「復興の事前準備」から、研究テーマとしては、復興で目指すであろうまちの将来像のうち、今から実践できることは実践して、被害を減らし、復興が迅速にできるまちにしていく「事前復興の実践」に展開している。それはダメージを最小限に抑える取り組みを促すことにもなり、必然的に防災・減災につながっていく。たとえば、大津波でまちの8割が壊滅した後に高台移転するのではなく、事前に「高台移転」しておくのである。現在、その動きは始まっている。発生確率が高まっている「南海トラフ大地震」の被害軽減を目指す対策推進特別措置法には、事前の「高台移転」が位置づけられた。災害復興では全額国の負担だが、事前の高台移転なので費用の一部が自治体負担となっている、しかし、四国のある地域ではこの負担分が捻出できずに「高台移転」の事前の動きは滞っている。その費用、わずか1億円である。

東京の「事前復興」の取り組み「復興まちづくり訓練」とは

 最近、東京都では、被害想定をもとに、行政職員が復興の進め方の手順を習熟する訓練を行うとともに、脆弱で防災まちづくりが必要な木造密集市街地に最も復興まちづくりが必要であるとして、地域住民と地元自治体とで行う「復興まちづくり訓練」を進めている。それは、今被災したらどんな「復興まちづくり」を進めるのかをみんなで考えてみる思考訓練で、私も中心メンバーの一人として参加している。その地域ではこれまで「防災まちづくり」を進めてきた。しかし、たとえば道路拡張によって災害に強いまちづくりをするという話になれば、住民の多くはその必要性に理解を示しつつも、住居立ち退きなどが発生する道路拡張には首肯しない。ところが、「復興まちづくり訓練」では、地震火災のシミュレーション映像を見てもらい、焼け野原になったまちをどう復興していくのかを議論する。自らが何とかしなければならないと気付き、そして知恵も生まれる。ブロック塀を生垣にすれば、狭くても消防車なら生垣を踏み倒して走行できるのではないか。でも広がっていればもっと安全。事前復興とは「子や孫、子孫にどんなまちに住んでもらいたいか」を考えることであり、その思いを防災まちづくりとして実践するのである。
東京で危惧される首都直下地震だが、「復興まちづくり」のみならず「防災まちづくり」でも問題になっているのが「地籍調査」が行われていないことだ。木造密集市街地などでは敷地の境界や面積、所有者などが正確に調査されておらず、登記情報が正確でないことが多い。土地の境界が未確定では、まちぐるみの復興も防災も、個々の住宅再建も進まない。自治体は、今すぐできる事前復興として早急に「地籍調査」を行う必要がある。

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