2024.03.14
環境保全は企業に利益をもたらす ―求められるエコ・テクノストラクチャーとエコ・プロシューマ―
大森 正之 明治大学 政治経済学部 教授環境破壊がもたらす「社会的費用」
私が専門とする環境経済学は、体系化されて半世紀ほどの比較的新しい学問である。その基本は、現実の環境問題に対して、経済学あるいは政治を含めた政治経済学の方法を用いてアプローチするものだ。環境経済学の中でも、私が研究対象としている「エコロジー経済学」は、エコロジーが要請する多元的な環境価値と市場経済を基礎づける一次元的な貨幣価値との統合を目指す学問と位置づけられる。具体的には、市場経済のプレーヤーである企業が、環境保全に取り組むことで利益確保を目指す理論と実際の研究である。
1950~60年代、日本は高度経済成長の傍ら「公害」という社会問題を生み出した。事態を重く見た政府は1967年「公害対策基本法」を制定。その後、今でいう“環境ビジネス”に企業が取り組むようになる。なぜなら、環境保全が利益をもたらすことが認知されていったからである。公害や環境破壊を引き起こした企業は、損害賠償や環境復元の費用といった「社会的費用」を被害者に対して支払う義務があるが、その費用は予測不可能である。一方、環境破壊を未然に防ぐために、公害防止装置・機器などを開発・購入する「社会的費用」は予測可能なものだ。企業にとって、こうした「社会的費用」を合理的に最小化するのが課題となる。企業が環境保全に取り組み、その結果生まれた環境破壊を防止する技術や装置が商品や特許として市場で売買されれば、その「儲け」は「社会的費用」の負担を相殺し、経済的余剰をも生み出す。