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環境保全は企業に利益をもたらす ―求められるエコ・テクノストラクチャーとエコ・プロシューマ―

大森 正之 大森 正之 明治大学 政治経済学部 教授/明治大学「エコ・グッズ,サービス&ビジネス博物館」館長

福島原発事故、今必要なものは何か

大森正之教授 福島原発事故の被害に関して、環境経済学の立場からの調査をここ2年継続しているが、古くから環境経済学者は原発に警鐘を鳴らしてきた。1960年代後半、先にのべた「社会的費用」の概念を50年代初頭に明確化した環境経済学者K.W.カップは、放射性廃棄物を数百年以上にわたって監視することは人類史上なかったことであり、それによって社会が負担する費用の増大は、経済にとってマイナス要因であると指摘した。同時期にアメリカの代表的な環境経済学者であるA.V.クネーゼは、公害のコストとベネフィットを分析したが、「原発のコストは算定できない」という結論に至った。クネーゼはカップ同様、原子力利用によって人類は、不滅の放射性廃棄物と、それに伴う永遠のリスク管理に付き合わねばならないことを喝破していた。環境経済学者は古くから原発を問題視してきたのである。
 私の研究室で行っている調査の一つは、被災者の現状を把握することだ。そこから見えてきたのは、賠償金支給も除染も重要なことではあるが、今、必要なのは職業人・勤労者の仕事の保障ということである。原発事故によって多くの人が根こそぎ仕事を奪われたが、働くことへの意欲は失っていない。勤労者が持っている働く意欲を行政サイドは軽視しているように思えてならない。支援法などの公文書で、暴力的に仕事を奪われた人を“失業者”と記すのがその端的な例だ。やるべきことは、OJTなどのトレーニングも含め、多彩な働くオプションを提供することである。さらに私が構想しているのは、「田園都市型・帰郷者ニュータウン」である。最大限の安全性を確保した上で、現地で福島の人特有の互酬関係の共同体を再生するというものだ。そこに原発が存在することはあり得ないだろう。
 1999年に東海村で臨界事故が起きたが、当初、誰も止められなかったことは記憶に新しい。福島の事故は、原発が「マイナスの資本」であることが顕わになった事故である。資本は労働を求めるが、そこにはプラスとマイナスの側面がある。被曝労働が要請される原発はマイナス面が強いことは明らかだ。「脱原発」は当然の流れといえる。

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