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2025.05.22

在宅医療の先に立ちはだかる、“看取り”をめぐる問題の正解とは?

在宅医療の先に立ちはだかる、“看取り”をめぐる問題の正解とは?
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1990年代、主に高齢者を対象に国の重点施策としてスタートした、在宅医療(病院外医療・地域医療)の推進。一連の政策は、団塊の世代すべてが75歳以上の後期高齢者となる2025年問題、多死化を迎える2030・2035年問題に向けて、制度を整えていきました。しかし在宅医療は、やがて終末期医療にも関わってくるもの。その延長線上には、在宅での看取りをめぐる問題、ひいては心肺蘇生を望まない高齢者の救急搬送をめぐる問題など、さまざまな課題が山積しています。

老化に伴い生じてくる不調を治し支えるのが、高齢化時代の在宅医療

小西 知世 20世紀には、「病気は医療で治すもの」というのが基本的な視点でした。しかし老化という現象のなかで生じてくる身体の問題は、必ずしも治せるものばかりではありません。糖尿病や高血圧などの慢性疾患はもちろん、首や腰、膝などの軟骨がすり減って痛くなったり、手足がしびれたりなど、加齢に伴う身体の不調は数多くあります。これらの問題を抱えつつ、症状を和らげ、日常生活のクオリティを保とうとするのが、高齢化時代の医療です。つまり治すだけの医療ではなく、治しつつ支える医療が21世紀の在宅医療だとも言えます。

 日本の在宅医療は、1980年代の中頃に東京都が難病患者の方々を対象に行った、あるひとつの事業から始まりました。1990年代には、在宅医療の制度を整えていく動きが進み、2000年代には介護保険制度がスタート。そして2010年代には、地域医療の在宅ケアに関する法制度を熟成させ、2025年問題に備えようとしてきました。

 政府が在宅医療を推進するようになった理由には、二面性があると考えられます。一つは、建前半分本音半分の理由ですが、病院で医療を受けるのとは違った、何ものにも変えがたい良さがあるというものです。もう一つは完全に本音の理由。医療費の削減です。

 医療費問題の発端は、1973年に田中角栄首相(当時)が打ち出した老人医療費無料制度です。70歳以上の医療費の自己負担分を無料にしたことで、お年寄りたちが治らない腰や肩の痛み、ちょっとしたお腹の不調などで毎日病院に通うようになり、それに乗じて定員を超過して入院させるような悪徳病院も出てきました。約10年で廃止された制度ですが、結果として今に続く社会保障費の赤字へとつながっています。

 医療費の削減に向けて、国は入院期間が延びることで医療機関の利益が減少するように診療報酬制度を定めました。とはいえ認知症などのお年寄りを、自宅でケアできないご家庭も少なくないでしょう。在宅医療には、老人保険施設や有料老人ホームなど、高齢者向けの施設でのケアも含まれますが、移行先の施設が見つからないとなると、入院しておいてほしいのに、追い出されるような格好になってしまう。たらい回しにされるかのような転院も、必ずしも患者さんやその家族の希望に沿って動いているわけではなく、大きな課題となっています。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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