在宅医療の最終目標は、その人らしい人生や生活を可能な限り支援すること
「何ものにも変えがたい良さがある」と先述した通り、在宅医療ならではのメリットもたくさんあります。皆さんお家に帰るとホッとするでしょう。病院は非日常ですが、在宅医療は普段の生活に医療が来てくれる。これは何より大きな違いです。病院であれば本やDVDも好きなときに見られませんが、自宅なら縛られることもありません。また、お家の中で家族としての役割を果たせます。たとえば子供の進路相談や家族の問題など、周りに人がいると話しづらいデリケートな話題も、気にすることなく会話できます。
逆にデメリットとして挙げられるのは、家族の負担が重いことです。また、容態が急変したとき、入院していればすぐに看護師に駆けつけてもらえますが、119番だと到着までの時間がかかります。さらにはベッドなどの介護用品やケアをするためのスペースも用意しなければならない。場合によっては、手すりをつけたり段差をなくしたりといったリフォームの必要も出てきます。
在宅医療の最終目標は、その人らしい人生や生活を可能な限り継続できるよう支援すること。そのために注意したいところは二つあります。
一つはケアを受ける方の気持ちに寄り添うこと。何を大事だと考え、どういうところに価値や重きを置いておられるのかを尊重しなければなりません。どうしたって在宅でのケアって大変なんですよね。そこでさらに認知症などの問題を抱え始めると、周囲もつらくなり、在宅医療を受ける方に当たってしまう。それが虐待につながるおそれもあるため、注意が必要です。
もう一つは、ケアをする家族を大切にすること。非常に負担が大きいのに、一人で抱え込んでしまうケースも少なくありません。誰か一人に任せきりにするところから、在宅医療の崩壊は始まります。ケアをされる人と同時に、する人たちも大切にすることが重要です。
さらに在宅医療のその先には、看取りの問題も出てきます。注意すべき点として、亡くなった後に抱きついたり移動させたりしないことが挙げられます。
死亡したかどうかを判断できるのは法律上、医師だけです。死因の確認後であれば大丈夫ですが、触れてしまうと法律上は異常死体、つまり死因不明の遺体という扱いになってしまいます。触れたことや移動させたことが死因なのではと、警察が状況を調査し、場合によっては解剖して、事件性がないと証明できて初めて遺体が家族のもとに戻り、死亡届を出せるようになるのです。
見方を変えれば、家族が犯罪行為を疑われていることにもなるわけです。そもそも近しい人が亡くなってすぐの心理状態であることを考慮していないのが大きな問題です。法律自体を変える必要があると、私は考えます。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。