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自分が来た道の後ろに、どれだけ失敗を残せるかが人生の学び
2025.09.03

学びを加速させるアドバイス自分が来た道の後ろに、どれだけ失敗を残せるかが人生の学び

リレーコラム
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教授陣によるリレーコラム/学びを加速させるアドバイス【7】

教員が教えている内容は、当然のことながら教員自身にとってはすでに知っていることです。でも教わる側にとっては、初めて触れることである可能性は大きくて、それなのについその視点を失ってしまいがち。それが怖いので、自分も常に何かの初心者であろうと思って、あるときから毎年、何か新しいことを始めることにしたんです。

試しにやってみると、割とどれも面白い。興味のあることって、いくらでも向こうから飛び込んでくるじゃないですか。だけど興味のないことって、自発的に向かわないことには、なかなか出会えません。単純に「知らないから興味がないだけ」「やったことがないから苦手なだけ」なのかもしれない。いざ触れてみたら想像と全然違った、なんてことはいくらでもあります。

コロナ禍のときには、人に会えないのがあまりに面白くなくて、地元の人に誘われて一緒にランニングを始めました。走ることは小さい頃から大嫌いでしたし、今でも別に好きではない一方で、走らない日はありません。楽しくはないけど興味深く、「もっとこうすればいいんじゃないか」といった探究心がわいてくるんです。

生産性だとか要領だとか、役に立つだとか有利だとか、今ってすぐ経済効率に結びつけようとしがちですが、自らの体験によって自分という一人の人間を確立していくのが人生です。有名な芸術家の絵なんて全部ネットで見られますが、ちゃんと美術館まで出かけて行列の中でその絵と正面から向き合うこと。映画でも、ちゃんと映画館に行って拘束される2時間半を過ごすこと。なんでも最初から最後までを効率悪くリアルに体験し尽くすことが、真の学びだと思います。

自分の身体や感覚を通じてより多くのことを直接体験し、その体験をさまざまな方法で発信し、誰かと共有することで、その経験は唯一無二のものなります。「知らなかった」という経験をたくさん積み上げて消化し、言葉で他者に発信することで物語や魅力が生まれ、「じゃあ自分も体験してみようか」というつながりもできていきます。

何かをやろうしたとき、ネットを探せば効率のいいやり方は出てきます。だけどたとえばバーベキュー一つとっても、どうやって火を起こし、どう焼いたらおいしいのか、失敗しながら経験を積み重ねることでどんどん面白くなっていきます。現代の日本社会って、子どもに失敗のない人生を歩かせるために、めちゃくちゃ努力してしまっている。いやいや、そうじゃないと。山ほどの失敗を、自分の来た道の後ろにどれだけ残せるかが人生でしょう。

手間を楽しみ、たくさん失敗をして、「わかったつもり」や「最短・最速」に騙されない。失敗を楽しむくらいの気分でなければ、学びを得ることはできないと自分に言い聞かせるぐらいがちょうどいい。そういう意味で言うと、学びは加速ではなく、減速させないといけないのかもしれませんね。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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