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2025.01.23

問題意識よりも心の動きが先立つ、建材のリユースやリノベーションを

問題意識よりも心の動きが先立つ、建材のリユースやリノベーションを
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建物のリノベーションや建材のリユースといったリサイクルについては、経済面や効率面、環境面など工学的に語られがちです。しかし人の手によりつくられたものには、それぞれに物語があるものです。あまり語られてはいませんが、そこに想いを馳せることによって、その重要性を直感的に理解できるのではないかと考えます。

リノベーションは金銭面での妥協案ではなく、自分らしさを出せる選択肢

門脇 耕三 リノベーションという言葉は、建物を大規模に改修する概念として、2000年前後から浸透してきました。その際、古い建物をオシャレに使うという概念もセットになっていました。古い建物を使うのは、必ずしも貧しいことではなく、むしろ豊かなことなのだという考え方と、あわせて出てきたように記憶しています。

 ただ、建物を新築することが、経済的にも厳しい時代になりつつあることも事実です。その理由として、一つは建材の価格、もう一つは労働単価の上昇が挙げられます。

 建築業界はバブル景気の頃に3K(きつい・汚い・危険)と揶揄され、職人になる人が激減しました。国勢調査を見ても、大工の数はピーク時の三分の一以下にまで減っています。その分、大工の労務費も上がっている。若い世代が新築で住宅を買うのは、昔より相当困難になっています。

 日本は個性ある家が少なく、マンションも戸建て住宅も標準化されがちです。そのため自分らしい住まいや空間に関心がある人の選択肢として、昔なら自由設計の新築が選ばれましたが、今は経済的に難しいこともあり、リノベーションが増えています。

 私が以前、リノベーションした、1980年築の戸建て住宅を例に紹介します。もともとは自分が住むために取得した物件です。

 欧米では古い建物の価値はリノベーションするごとに上昇する傾向にあり、住人が代わりながら住み継いでいくのが一般的です。アメリカの人たちは若いときに住居を安く購入し、休日にDIYで改装して、値段を上げてから売り、もっといい家に移っていきます。しかし日本は減価償却が建物に適用される特殊な国。築35年を超えると、建物に価値がなくなります。しかし解体撤去にもお金がかかるため、古い住宅つきの土地が売りに出されることも多いのです。私がリノベーションしたこの住宅も土地の値段だけで購入しました。

 新宿まで20分ほどの急行停車駅から徒歩5分という好立地にある調布市の4LDKだったのですが、当時は住宅ローンが低金利時代で、住居費は月5万円台で暮らしていました。素晴らしい物件だったのですが、仕事の都合で転居することになり、その際にリノベーションして売ることにしたのです。月5万円台で7年間も暮らしたことを鑑みれば、周辺の同規模の住宅に家賃を払った場合に比べ、600万円ほど得をした計算になります。その600万円を費やしてリノベーションを施しました。

 そもそも家族規模が小さくなってきた現代、4LDKだと多くのご家庭で部屋が余ります。そのため1階の和室をオフィスや店舗として使えるようにし、少し下がった道路側からの新しく階段をつくって直通できるようにしました。また、リビングの南側にある大きな窓は、プライバシーの問題もありますし、耐震補強も必要だったため壁に変えました。室内は天井板や壁紙を剥がして最低限の仕上げをし、住む人が自由に手を加えられる住宅にしました。

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リノベーションした調布市の門脇邸 ⒸKenta Hasegawa

 結果、多くの方が興味を持ってくださり、最終的には商社にお勤めの旦那さんと、翻訳家でフランス系ハーフの奥さんのご夫婦が購入されました。奥さん曰く、日本の家は平々凡々で住みたいものがないなか、ここが見つかりとても気に入ったと。そのため多少の設計料も回収できる額で購入していただき、うまくバトンタッチできました。

 リノベーションは新しいものを買わなくても個性を出しやすい。自分らしく暮らしたい人がお得に住むのに、適した選択肢になりつつあります。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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