排水設備を進化させる拡張排水システム
では、どのような対策があるのか。その答えの1つが、私の研究する拡張排水システムです。
拡張排水システムとは、ひと言でいえば、排水管を小径・無勾配(緩勾配)とできる排水システムの総称です。
排水管の小径管の一例をあげると、洗濯機排水の管径であれば、従来の排水システム50mmに対して、拡張排水システムでは20~25mmと大幅に縮径にすることができます。
拡張排水システムは、現時点ではポンプによる方法と、サイフォンの原理を用いた方法に大別されます。
ポンプとは、身近な例でいうと風呂の残り湯を洗濯機で利用する際に用いられている、水を搬送するための機械です。拡張排水システムでは、それより少し大きなポンプを用います。
ポンプによる方法には、小型圧送排水システムと真空排水システムがあります。小型圧送排水システムは、圧送ポンプで水を押し上げて搬送するシステムで、真空排水システムは、真空ポンプで水を吸い上げて搬送するシステムとなります。
このシステムの場合、排水管の自由度はかなり高くなり、水まわりを好きな場所に設置することが可能です。配管は小径化でき、ポンプにより床下ではなく天井裏でも配管することもできます。
しかし、勾配を利用した従来の排水システムに比べ、ポンプを稼働させるための電力を必要とすることから、若干ではありますがエネルギーを消費するという点は理解する必要があります。
拡張排水システムには、もうひとつ、サイフォン排水システムがあります。
これは、サイフォンの原理を応用したもので、要は、衛生器具の流入する位置より、最後に流出するところが低い位置にあれば、その過程の配管の高低などには関係なく水を流すことができるというものです。この原理により、床下の配管を無勾配に設置することができるわけです。
条件としては、配管内が満流の状態で、流下させて、各階の放流先である排水立て管に接続させることです。
そのため、水まわり設備から出た水を排水立て管に接続する部分を通常より下に設計することが必要といった制約はありますが、電力を使わないので、サイフォン排水システムは、従来の排水システムと同様にエコシステムです。
このように、拡張排水システムは配管の勾配に関係なく水を流せるシステムであり、そのため、建物の設計の自由度を高めることができます。
既存建物を建て替えするにも、多量の資源やエネルギーを消費することから、建物を長く使うことが大切です。拡張排水システムは、住む人のライフステージにあわせた住宅の改修を容易にして、長寿命住宅の実現、省資源化や省エネルギー化に寄与します。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。