
近年、電力工学の分野では、次世代電力ネットワークの議論が盛んになっています。きっかけは、地震や台風などの大きな災害によって大停電が起こるケースが相次いだことです。実は、いまの電力ネットワークは電気の安定供給を支えている一方、災害などには脆弱であると言います。
電気の安定供給を支える電力ネットワーク
いま、私たちの生活では、照明も家電品も、スイッチを入れれば稼働するのが当たり前になっています。電線が張り巡らされ、停電なども滅多にない現代社会では、電気は使えて当然と思われてきました。
ところが、この電気の供給が、意外と脆弱であることが露わになる事故が、近年、続いています。
例えば、2018年には北海道全域が停電するブラックアウトが起こりました。発端は、最大震度7を記録した胆振東部地震です。この地震によって、北海道で最大の発電所である苫東厚真火力発電所が停止したのです。
とはいえ、北海道は、関東地方と中部地方を足した面積に匹敵するような広大さです。他にも火力発電所はありますし、水力発電所や風力発電所もあります。なぜ、北海道全域で電気の供給がストップしたのか。それは、電気の性質と、電力ネットワークが関係しています。
電気は、発電所で発電し続けているものを、そのまま消費し続けています。つまり、発電所は、必要な電気の量だけを発電するようにコントロールしているのです。
その要因のひとつは、電気は貯めておけないからです。つまり、在庫調整のようなことができないのです。
そんなことはないと思う人もいるかもしれません。私たちの身の回りには乾電池やバッテリーがあり、スマホやノートパソコンなどに手軽に利用しているのですから。しかし、発電所が発電する電気の規模はけたが違います。乾電池に貯めるというわけにはいきません。
もちろん、発電施設のための大型蓄電池の開発も進んでおり、技術的には可能になっています。しかし、それは、非常に高価なのです。大容量のものを大量に設置することはまだ難しいのです。
そのため、電力会社は、常に、電気の需要を見ながら、バランスの良い供給ができるように発電しているのです。
さらに、需要と供給のバランスが崩れたり大きな変動があると、周波数と電圧が変動する問題も起こります。
周波数とは、時間の経過とともに大きさと向きが周期的に変化する交流の電気において、その流れる向きが入れ替わる回数のことです。1秒間に入れ替わる回数をHzで表します。日本の場合、東日本は50Hz、西日本は60Hzになっています。
私たちが日常使っている家電品などは、この周波数の規格で作動するように作られています。当然、電力会社から送られてくるのは、この周波数に合わせた交流の電気です。
また、電圧も、日本の家電品はだいたい100Vで作動します。これも、また当然、電力会社は約100Vの電圧を維持して電気を供給しているわけです。
この周波数と電圧を維持できているのは、発電所の発電機や変電所が安定して稼働しているからです。
例えば、需要と供給のバランスを取るために発電量をコントロールする際には、どこかひとつの発電所でコントロールするわけではなく、並列に繋がっている発電所全体でコントロールします。
つまり、発電量を変えても、ネットワークされている発電所の発電機すべてが同じ動き、要は、同じ回転数をとりながら調整します。それによって周波数は維持されるのです。
逆に言えば、電気消費の急激な変化があっても、各発電所がネットワークされていることで、特定の発電所が大きな変動を起こさないで済むわけです。
仮に、ひとつの発電所だけで電気消費の変動に対応した場合、その発電所の発電機の回転数は大きく変わることになります。
しかも、ネットワークされている各発電所に、その変動が伝播していきます。すると、そのすべての発電所の電気が不安定になってしまいます。
その場合、発電施設が損壊する恐れも出てきます。そのため、通常は、施設の安全装置が働き、発電機は自動的に停止することになるのです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。