建物の水からカーボンニュートラルをみる
世界的に2050年カーボンニュートラル化の目標が掲げられ、より一層の省エネルギー、節水・節湯が求められています。日本では、建物の中で使うエネルギー量を減らす省エネルギーと、つくる創エネルギーの技術により、建物のエネルギー消費量を正味ゼロにするZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル、通称:ゼブ)、住宅についてはZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス、通称:ゼッチ)とすることが建物性能として強く推奨されています。
建物で使用されるエネルギーの多くは、エアコンや換気扇といった空調設備や、照明やエレベーターといった電気設備が主となりますが、給排水衛生設備もエネルギーを消費しています。そのため、私は、建物の給水の節水や省エネルギーに繋がる研究として、従来の給水設計資料や方法の見直しを進めています。
節水便器や自動水栓、エアインシャワーなど、衛生器具の節水化は1990年代以降に格段に進みましたが、一方で、給水設備の設計資料はそれ以前の1980年代に設定されたままの状況です。設計資料が古いままだと、折角の衛生器具の節水化も反映できず、水をおくるポンプや貯める水槽が過大なものとなってしまいます。そのため、このように古くなった設計資料を更新することは、喫緊の課題です。
例えば、設計用のための資料として、1日1人あたりや1床(ベッド)あたりの水使用量を単位給水量といい、それを使って概算的に設備設計者は計画することがあります。それが現在の総合病院の設計基準では、単位給水量は1日あたり1,500~3,500L/床(ベッド)ですが、実測や文献などによる実態を調査・分析により、実際はその半分以下でよいことがわかっています。
こうした、実態に即した適正な設計基準を詳細に設定することによって、設計者はポンプや配管口径の適正化を図り、これまで過剰であったポンプなどの消費エネルギーの低減や、配管の製造するために消費されるエネルギーの抑制を実現することが可能となります。
また、それ以外にも、雨水や空調用の結露水を溜めてろ過した再利用水を、便所洗浄用などの雑用水として利用することで、浄水場でろ過する上水(水道水)の削減をしたり、給湯のためのエネルギーに太陽熱を利用するなど、そうした設備を充実させることが節水や省エネルギーに繋がっていきます。
これらは、ひとつひとつは小さなものですが、これを積み重ねていくことが、建物の設計、施工から、運用、解体にわたるライフサイクルを通じたエネルギー消費量の抑制に繋がり、ひいてはCO2排出量を抑え、カーボンニュートラルに寄与するのです。
今後もずっと、人・建物・水・地球が、良好に共存できるよう、それらすべてを大切にしていく。その実現・技術向上のため、日々研究しています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。