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慈悲的性差別の罠

 ジェンダーに基づくステレオタイプというと、まず女性を見下すような内容の、否定的内容を思い浮かべがちだと思います。ジェンダーに基づく否定的ステレオタイプを敵意的性差別と呼びます。

 しかし、女性に対するステレオタイプというのは否定的なものばかりではありません。男性と違う領域で女性が優れている、女性と男性は補い合う関係であって、男性は女性を守らなければいけないといったような一見肯定的な内容のステレオタイプもあります。そのようなステレオタイプは、慈悲的性差別と呼ばれます。

 慈悲的性差別は肯定的なステレオタイプなのだから問題ないじゃないか、と考える人もいるかもしれません。しかし、実はそうではありません。むしろ、慈悲的性差別のほうが厄介とすら言えるかもしれません。それは、慈悲的性差別が敵意的性差別を合理化してしまう作用をもっているからです。

 「物事にはいい面も悪い面もある」といったようなメッセージに触れると、人間は世の中が何かバランスがとれているように感じてしまうものです。ジェンダーステレオタイプについても同様です。

 例えば、女性が慈悲的性差別を含むメッセージを読むと、ジェンダーについて世の中が公正だと感じるようになり、ジェンダー格差を是正する運動への参加意図も弱くなるということが研究で示されています。

 慈悲的性差別と敵意的性差別を組み合わせることで、男性は親密さへの欲求を満たしつつ女性に対する優越的な立場を維持することができてしまっているわけです。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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