学びを加速させるアドバイス全高校生が「情報I」を学んでいる事実を、大人も“自分事”に
教授陣によるリレーコラム/学びを加速させるアドバイス【17】
2025年1月から、大学入試共通テストの科目に「情報I」が加わりました。このニュースで初めて、「いまの高校では誰もが“情報”を学んでいる」という事実を知った方も多いのではないでしょうか。「情報I」は、2022年度から日本の高等学校における共通必履修科目になっています(実はもっと昔から必履修科目ではあったのですが…)。
「情報教育」と聞くと、「プログラミングなんて理系向け」「文系には関係ない」と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし「技術的に実現不可能なことに騙されない目を持つ」「自分の業務をデジタル化したいときに、無理な仕様を要求せず、適切な整理ができる」といった素養やスキルは、多くの社会人にとって重要なものです。
実際の授業も、プログラミングの実践が中心なわけではありません。「問題を発見し、定義し、解決する」というプロセスで、活用できる技術や手法を身につけることを目的としているイメージです。より高度なプログラミングや専門的な内容は、選択科目である「情報Ⅱ」に委ねられており、まず「情報I」では広い意味での「情報活用力」を育むことに主軸を置いているのでしょう。
たとえば、SNSとの付き合い方、ネットワークやセキュリティの基礎知識、情報リテラシーなどが扱われ、探究学習を通じてプレゼンテーションを行う機会もありえます。社会や生活の中の課題を調べ、データをもとに判断するといった一連の流れのなかで、ロジカルシンキングや抽象化、モデル化といった思考法を体験的に学んでいくのです。
興味深いのは、「情報I」が探究型の学びに重きを置いている点です。たとえば、自分が気になる社会問題を調べ、課題を抽出し、数値化できるモデルに落とし込み、判断基準を設計していく。「早く終わることと、品質が高いことの、両方がいい感じにバランスしているものが良い」など、要求を明確にし、それに応じた評価基準を設定する。こうしたプロセスそのものが「問題解決力」を養う学びであり、これからの社会で求められる力と直結しています。
とくにビジネスの現場では、「何を問題とし、どこまでが技術的に可能なのか」「どんな情報をもとに判断すべきか」といった問いに日々向き合っています。無理な発注や非現実的な要求をしないためにも、自分自身が“情報を使う側”としての基本的な素養を持っていることは、ますます重要になるでしょう。
文理の枠を超えて、すべての高校生がこのような“情報を使う”ための基礎的リテラシーを学んでから社会に出るということは、その共通言語をもたない世代の社会人にとっても見過ごせない事実です。「情報I」の内容に触れるのは、いまから学び直す絶好のきっかけです。子どもたちが学び始めていることを、大人も自らの仕事に引き寄せ、もう一度問い直してみる価値は、きっとあるはずです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
