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「ゆすりは自由な取引?」非常識な問いかけが常識を進歩させる

菊地 一樹 菊地 一樹 明治大学 専門職大学院 法務研究科 准教授

非常識な問いかけに向き合う

 私たちは、ゆすりとはいけないことと常識的に思っています。しかし、その常識を突き詰めてみると、実は、人から金品を脅し取ることは許されないとか、道徳的ではないなど、非常に主観的、感情論的なものであることがわかると思います。

 刑法がそうした場当たり的な感情論に左右されては、先に述べたように、刑罰は峻厳な国家権力の発動である以上、非常に危険なことにもなりかねません。

 もちろん、常識感覚はとても大事です。法律は論理で構築されていますが、その根本にあるのは、私たちの常識感覚です。私たちがしてはいけないことと直感的に感じることが、法律として体系づけられているとも言えるのです。

 一方で、人類は常識を進歩もさせてきました。例えば、江戸時代までは当然の行為だった仇討ちは、いまは廃止され、蛮行とみなすことが常識になっています。

 こうした新しい常識が生まれてくる第一歩は、実は、いまある常識に対する非常識な問いかけです。

 ゆすりとは、自由な選択肢を増やす手段ではないのか。一見、非常識な問いかけに向き合うことが、ものごとの本質に迫る第一歩なのです。

 もちろん、ゆすりのパラドクスに挑戦した学者達の試行錯誤に見られるように、その答えは容易に得られるものではありません。

 しかし、特に刑法は、非常識な問いかけに向き合い、多様な議論を詰めていくことで、処罰のギリギリの限界の客観性が共有されていくものだと思います。

 その意味で、非常識な問いかけをすること自体がSNS上などで叩かれたり、誹謗中傷の対象となったりする昨今の風潮は、社会を硬直化させていくことにもなりかねないと感じられます。

 皆さんも、身の回りのことから、当然や常識と思っていたことに疑問を投げかけるまなざしをもってみてはいかがでしょう。

 最初は、自問自答でも良いのです。非常識な問いに向き合うことで、なにか新たな発見が生まれるのではないかと思います。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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