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「マジョリティ」が創り出す「他者」としてのLGBT?

兼子 歩 兼子 歩 明治大学 政治経済学部 准教授

近年、日本でも、同性婚を公的に認める制度を導入する自治体が増えてきています。LGBTやSOGIに対する理解が広まってきているという見方がある一方で、日本では、まず、人権という基本的な部分に対する考え方から見つめ直す必要があるという議論があります。

1960年代から本格化したアメリカのLGBT権利運動

兼子 歩 近年、日本でもLGBT(Lesbian, Gay, Bisexual, Transgenderの頭文字をとったもので、それぞれ、レズビアン=女性同性愛者、ゲイ=男性同性愛者、バイセクシュアル=異性・同性どちらも性的欲望の対象とする者、トランスジェンダー=出生時に与えられた性別と性自認が異なる者)やSOGI(ソジ:Sexual Orientation and Gender Identificationの略で、人間の性的指向と性自認のこと)という言葉が広まり、いわゆる性的マイノリティに対する理解も広がってきているように見えます。しかし、アメリカと相対で見ると、LGBTの権利に対する社会の取組みに違いがあることがわかります。

 アメリカでLGBTの権利運動が本格的に始まったのは、1960年代の末です。それ以前にも同性愛者の権利運動はありましたが、1969年、ニューヨークのゲイバー「ストーンウォール・イン」で起きた、警官と同性愛者が衝突するストーンウォールの暴動をきっかけとして、ゲイ解放運動が全米に広がっていきます。ここで注目したいのは、黒人や女性に対する差別撤廃や平等を求める社会運動によって、公民権法が1964年に成立しますが、こうしたブラックパワーや女性運動などの公民権運動、さらにベトナム反戦運動など、同時代の様々な社会運動とともに、ゲイ解放運動も、同性愛者の権利運動として、互いに影響し合い、ときには連携しながら展開していったことです。そのため、当初は、同性愛者を否定したり、差別する社会のシステムそのものが問題であるとし、社会を根底から変革しようとする動きでした。例えば、近年ではLGBTの社会的受容の象徴のひとつと理解され、アメリカでは2015年の最高裁判決によって全米で施行されることになった同性婚についても、初期のゲイ解放運動は同性婚を要求するどころか、そもそも結婚制度は同性愛者を差別する社会制度であり、破壊しなくてはならないと主張していました。限られた人間しか参入できず、しかも参入者の人間関係や役割を制限する結婚制度を解体することで、はじめて真に結びつきたい者同士が愛に基づいて自由に結びつき合えるようになるのだと、結婚制度そのものを否定していたのです。

 こうした動きが大きく変わってくるのは、1980年代以降です。いわゆるHIV/エイズ・パニックが起き、同性愛者に対するまなざしが厳しくなると、エイズ患者および同性愛者に対する差別に抗議する新たな運動が盛んになると同時に、LGBTの権利活動家の中に、既成社会の価値に積極的に順応し、自分たちの価値を示そうという動きが出てくるのです。LGBTマーケティングといわれている手法によって消費者市場としてのLGBTの有益さを訴え、そしてLGBTの参加が社会や企業の活性化に繋がる多様性や創造性をもたらせると訴え、主流社会に貢献できることを主張していきます。同性婚を平等権のひとつとして、重要なアジェンダ(議題)にしていくのもこの頃です。ストレート(異性愛者)でシスジェンダー(出生時に与えられた性別と性自認が一致すること)である社会の主流派側は、結婚という社会のオーソドックスな形態を積極的に求める同性愛者に対しては、理解し合える者として、シンパシーを感じるようになっていったのです。

 このように、アメリカにおける同性愛の権利運動には何度かの転換がありましたが、近年の主要なLGBT権利団体の運動にみられるのは、LGBTの権利、それは特別なものではなく、シスジェンダーと同じ人権を求めるということです。この概念を効率的に社会に広げていくためのロジックとして、近年では、社会に貢献できる存在であることを積極的に表現していると思います。

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