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2018.10.17

「マジョリティ」が創り出す「他者」としてのLGBT?

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LGBTの人権を考えることが日本社会を変えるきっかけになる

 LGBT差別を考えるとき、SOGIのみならず、人種・民族マイノリティ差別や障害者差別、女性差別などにも共通する問題を見出せます。それは、差別を受ける「マイノリティ」は、「マジョリティ」によってつくられる、あるいは「普通」で「正常」な「マジョリティ」とは、ある人々を選び出し「異常」な「他者」としての「マイノリティ」をつくりだすことで成立するものなのだ、ということです。

 同性愛は、アメリカでは19世紀末以降、「疾患」であると扱われてきました。しかし1970年代に、同性愛者の活動の講義を経て、アメリカ精神医学会がその指針を変更し、同性愛は「病気」ではなくなりました。トランスジェンダーは「ジェンダー不和」「性同一性障害」という「病気」として語られる時代が長くありましたが、WHOは今年、トランスジェンダーを疾患の分類から外すと発表しました。

 これまで、同性愛やトランスジェンダーを「病気」とすることによって、人間は生まれた時に男性か女性に分類され、その分類が自己認識と一致している状態、そして異性にのみ性的欲望を抱くという状態のみが「正常」であると規定されてきました。しかしそれはむしろ、男性として生まれた男性は、男性として期待される特定の役割を果たして女性に欲望し、女性として生まれた女性は女性として定められた役割に順応して男性とのみ性関係を持つべきだという価値観をつくりだし、強制していくことを意味していました。こうした動きは、20世紀に入るアメリカ社会において男女、特に女性が社会においてその役割を拡大・多様化しつつある時代に対する反動として生まれ、強まっていったものです。したがって、現実に存在していた、あるいは存在しうる男女のさまざまな生き方、アイデンティティのあり方を制限するために、特定の狭い「男らしさ」「女らしさ」観に縛られないさまざまな生き方や存在の仕方が「異常」な「マイノリティ」化されてしまったということがいえます。

 しかし、であればこそ、1960年代以降のアメリカが社会に異議申し立てをする様々な運動によって変わったように、現代の私たちも、日本の社会のあり方を見直し、変えていくことで、皆がより生きやすい社会をつくっていくことも可能です。それは「マジョリティ」を構成する側にこそ責任があります。LGBTの問題は、それを人権の問題と捉えるとき、「他者」の問題ではなく、「わたしたち」の問題であると理解するきっかけになります。そしてそれは、現在の社会のあり方の根本を見直し、変えていくきっかけになると思います。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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