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現代の経済学では説明できない!? 縄文時代の持続可能性社会

阿部 芳郎 阿部 芳郎 明治大学 文学部 教授

貝塚からもわかる、海の資源管理の知恵

 自然の資源を枯渇させないように利用する縄文人の知恵は、ほかにも活かされています。例えば、縄文時代の貝塚は東京湾沿岸に多く見られますが、日本で最大の貝塚は、東京都北区にある中里貝塚です。いまでは内陸部ですが、縄文時代は、ここまで東京湾が入り込んでいました。ここには厚さ4mほどもある貝の層が当時の浜辺に沿って約1㎞にもわたって続いています。この貝塚の貝は、非常に大きなハマグリとカキの2種類だけ。ハマグリは、木の年輪のように、貝殻の断面に日輪を刻んでいます。顕微鏡でこの成長線を数えることで年齢や採集された季節もわかります。中里貝塚の場合はほとんどのハマグリが5月から7月に採られているのがわかりました。現代の潮干狩りの時期とほぼ一致しています。カキは一般的に身が大きく太る冬に採られていたと推測されます。つまり、夏にはハマグリを採り、冬にはカキを採っていたようです。また、この貝塚からは年齢の小さい貝がまったく出てきません。おそらく、採っても海に戻していたのでしょう。これも、貝という海の資源を枯渇させず、長期間、採り続けるための知恵が働いていたといえるのです。

 しかし、こうした資源管理のルールを、すべての縄文人がもっていたわけではありません。同じ東京湾沿岸でも、千葉県側の貝塚は集落の中に貝塚が残されますから集落単位で貝の採取が行われたことを示しますが、ハマグリは小さい殻ばかりです。しかもアサリやカキやキサゴにシオフキなど雑多な貝も採集しており、同じ東京湾沿岸の縄文人でも管理能力に歴然とした違いが認められます。この違いが、なぜ生じたのか。それは貝塚だけを調べただけではわかりません。一方の東京側は河川に沿って内陸の奥深くまで多くの集落が群集しており、彼らは貝塚を残していません。つまり中里貝塚で加工した殻をとった貝が内陸に流通していたのです。このように同じ生態系にありながら、海の資源の利用の仕方が大きくことなるのは、人間社会の側に大きな構造の違いがあったことを示しているのです。

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