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天皇の生前退位の「意志」を認めない「意図」の方が問題

山田 朗 山田 朗 明治大学 文学部 教授/明治大学 平和教育登戸研究所資料館 館長

歴史上、明治天皇のようなあり方こそ例外

 日本の歴史を振り返ると、実は天皇の生前退位は非常に多くあります。7世紀末以降、天皇が退位し、太上天皇(上皇)となることはしばしば起き、平安時代あたりから増え始め、江戸時代に入っても、生前退位は行われていました。権力闘争や、政治的圧力で譲位せざるを得ないという状況もなかったわけではありませんが、ある意味、自由に譲りたいときに譲っていたのです。ところが明治時代になり、天皇を国家の権威と権力の源泉とするシステムが確立すると、天皇が退位することのデメリットが強調されるようになりました。天皇が上皇となることで権威・権力が分裂してしまうことを防ごうというのが、明治政府を創った人たちの基本的な考え方だったからです。そこで、天皇の生前退位は許されなくなりました。天皇に権威と権力を集中させてしまったが故の措置であったと言えます。ところが、アジア太平洋戦争の敗戦とともに大日本帝国憲法は日本国憲法へと改正され、皇室典範も改正されたのですが、皇位継承の制度は変わることなく戦後に引き継がれてしまいました。つまり、天皇は皇位継承にあたって、いまだに明治時代の発想に縛られているのです。

 日本の天皇制は古代から一貫して変わっていないと思っている人も多いと思いますが、歴史を見ると、天皇の役割や立場は変容していることがわかります。例えば、天皇は不可侵という意味で神聖であり、天皇が自ら政治を行う姿が古代からのあるべき姿だ、というイメージがありますが、実際に親政が行われていたのは古代の一時期と、南北朝時代の南朝を興した後醍醐天皇ぐらいです。天皇を国家の権威と権力の源泉とし、統帥権(軍隊を統率する権限)も行使するという明治時代のようなあり方は、むしろ例外です。平安時代くらいから天皇の直接的な役割は政治を司る立場から、儀礼を司る役割へと変わっていきました。それと時を同じくして、生前退位(譲位)が増え、頻繁に行われるようになったことは象徴的といえます。政治の実質的な権威・権力をもたなくなった時代、それに合わせて天皇は一定の自由な意思で“引退”ができていたのです。

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