2024.03.21
- 2022年5月25日
- IT・科学
民事裁判のIT化は迅速化のためだけではない
栁川 鋭士 明治大学 法学部 准教授裁判のIT化には様々なメリットがある
裁判の迅速化、適正化、そして充実化を図っていく手段として、いま、導入が進められているのがIT化です。これは、以前から検討が行われていましたが、このコロナ禍をきっかけに大きく進みました。
実は、2020年に、コロナ蔓延防止のために人が集まる裁判も一部の例外はありましたが基本的に一時停止されました。
しかし、その間にも案件は増えていきます。そこで、裁判手続を規律する現行の民事訴訟法の下で既存の制度(書面による準備手続(民事訴訟法175条以下))を活用し、オンラインでウェブ会議ができるマイクロソフト社のTeamsを導入し、裁判官や弁護士などが議論する、事実上ではありますが、いわゆるe法廷が実施されたのです。すると、思った以上に裁判官及び弁護士双方に好評であり、口頭議論が活性化し効果的に争点が整理されるとの評判を聞くようになりました。
例えば、民事裁判では、セミナールームのような小部屋に裁判官や弁護士が集まり、争点を詰めていく弁論準備手続(民事訴訟法168条以下)を行います。
ところが、その場合でも、口頭での議論が十分に行われず、一方の主張に対して、それに対する反論は次回の準備書面にて行うなどという弁護士の対応も少なからず見られます。これでは、訴訟手続が長期化してしまいます。
ところが、これを、モニター上に顔がアップになるオンラインで行うと、法廷等の裁判所における硬い正式な手続ではないことから自由に話せる雰囲気や、その場で答えられない、沈黙するということは、裁判官の心証を悪くすると感じられるため弁護士が事前準備をしっかりするからではないかと思います。
このように弁護士が議論するための準備をしっかり行うことは議論の活性化と早期の争点の把握に繋がります。ところが、この事前準備は骨の折れる作業なのです。
先に述べたように、以前は漂流型審理が行われていた背景には、弁護士がしっかりとした準備を行っていないことも指摘されていました。事案のすべてを詳細に調べておくより、相手側から指摘されたことに対して都度対応し反論する方が、当然、楽なのです。
しかし、それでは口頭議論は活性化しませんし、争点を詰める作業も長期化してしまいます。
つまり、e法廷になって、そうした弁護士の対応の変化が期待できれば、それは大きなメリットと言えます。
また、オンラインならば、法廷や弁論準備手続のための部屋の空きを待って日程調整をする必要がありません。
さらに、関係者が、審理のたびに裁判所を遠方から訪れる必要がないことも大きなメリットです。いままでは、東京の事務所の代理人弁護士が大阪地裁に出向くことが当たり前だったのです。このようなメリットのあるウェブ会議による弁論準備手続等が改正民事訴訟法では柔軟に行うことができるように改正されています(改正民事訴訟法第170条3項等)。
また、改正民事訴訟法の下で、今後IT化実現のためのシステムが整備されれば、訴状等の書面や証拠などをオンラインで提出する、いわゆるe提出(改正民事訴訟法132条の10以下等)も可能となり、送達もオンラインシステムによる送達(同法第109条以下)が可能になります。いままでは、すべての書類を紙で裁判所に提出し、交付送達を実施し、ファックスで書面を送っていました。e提出やオンラインシステムによる送達が可能となれば手間と時間が省かれるようになります。