
2022.08.09
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著作権は、一般の人にとっては比較的わかり易い法律事案と言われます。例えば、マンガなどの海賊版をインターネット上にアップするのは違法だと誰もが思います。でも、実は、著作権侵害をめぐる問題はなかなか複雑な面もあり、また、私たちにとって身近な問題でもあるのです。
日本音楽著作権協会(JASRAC)が、音楽教室で学ぶための演奏に対して著作権使用料の支払を求めるために、文化庁に使用料規定の届け出をしたことに対して、音楽教室側が著作権使用料を支払う必要はない、という訴えを提起し、いま、裁判になっています。
この音楽教室事件では、主に、音楽教室(教室での10名以下のレッスンや、教室又は生徒の自宅での1対1のレッスン)における、①先生による演奏(生徒にお手本を見せるための演奏)と、②生徒による演奏のそれぞれについて、音楽教室の運営者が著作権法の演奏権の侵害を行っているといえるか、が問題となっています。
演奏権の侵害となるためには、問題となる行為が、(1)著作権法22条に規定された演奏権の権利対象となる行為であり、かつ、(2)著作権法30条以下の権利制限規定に該当しない、との二つの条件を満たす必要があります。
(1)につき、著作権法22条は「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。」と規定しています。
この条文により、演奏権の侵害となる演奏行為は、「公に」、すなわち、「公衆に直接…聞かせることを目的として」演奏するものに限られます。例えば家族に聞かせるために演奏する行為は、公にされたものではないため、演奏権の侵害とならないのです。
ここで言う著作権法上の公衆とは、基本的には、不特定、または、多数のいずれかに当たると考えられています。この特定・不特定という言葉の意味についても様々な理解がありますが、一般的には、受講料等を払えばだれでも生徒になれる、ということであると、音楽教室から見て生徒は公衆にあたるという理解が有力です。
また公の演奏に該当する場合にも、(2)著作権法30条以下の権利制限規定が適用されれば演奏権の侵害とはなりません。
演奏権について特に重要な権利制限規定としては、著作権法38条1項があります。著作権法38条1項によれば、営利を目的とせず、聴衆から演奏の対価を受け取らない等の要件を満たす場合には、(著作権者の許諾を得ずとも)著作物を適法に演奏できることとなります。
例えば大学の文化祭等で楽曲を演奏の対価を受け取らず営利目的もなく演奏する行為は、公衆に直接聞かせる目的であっても、演奏権の侵害とならないこととなるのです。
そして、これらの条文の適用を考える上では、誰がその演奏を行っている主体なのか、という点が問題となります。
特に、生徒による演奏については、これをあくまで生徒が演奏していると考える場合、先生に聞かせる目的が「公衆」に聞かせる目的といえるかがまず問題となり、仮にこの点で公の演奏といえるとしても、生徒自身には営利目的もなく対価も受け取らないので、演奏権の侵害とならないこととなります。