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世界では、インターネットを快適にするための規制が始まっている

湯淺 墾道 湯淺 墾道 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授

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当初は、自由やボーダレスを実現するものと見なされていたインターネットに対して、いま、各国で規制を強化する動きになっています。一方で、世界では社会のデジタル化が進んでいますが、日本ではそれが遅れています。ICT技術の規制と推進は今後、どうなっていくのでしょう。

LINEがあらわにした大きな問題

湯淺 墾道 2021年3月、無料通信アプリを運営するLINE社が、ユーザーの画像や動画のデータを韓国内のサーバーに保管していることが報道され、問題視されました。

 しかし、IT関連企業が国外のサーバーを利用すること自体は珍しいことではありません。では、LINEの場合は、なぜ大問題になったのでしょう。

 ひとつには、韓国のサーバーを利用していることが、日本人の8割が利用しているというユーザーに明確に知らされていなかったことです。

 データは暗号化されていて、サーバーを管理している韓国人スタッフも見ることはできないという説明がなされましたが、いままで知らされていなかったこともあって、ユーザーは不信感を抱きました。

 さらに、中国の会社に一部の業務を委託しており、その中国のスタッフはデータを見ることができていたという事実も不信感を募らせたと思います。

 また、LINEを含め、SNSが事実上インフラ化していることも問題を大きくしました。

 例えば、多くの自治体が、コロナ禍にあるいま、地域の感染者数の発表や、体調が悪くなった人の連絡を受けるなど、コロナに関する様々な情報の受発信にLINEを活用しています。

 それは、地域住民との情報アクセスにおいて、従来の方法、電話やハガキ、回報などより、はるかに人手も手間もかからず、スピーディーに低予算で行えるからです。

 実際、今回の問題を受けて、LINEの活用を停止するといった自治体もありましたが、LINEの利便性を知ったいまでは、では、LINEに代わる情報アクセス手段があるかといえば、ないのです。

 確かに、今回の問題を受けて、LINE社は、今後、国内のサーバーを利用することを発表しましたが、そもそも韓国のサーバーを利用した理由はコストの問題です。

 つまり、民間企業である以上、利益を出すことが主目的なのですから、そのためには様々な手段を講じるわけですし、利益が見込めないとなれば、LINEというサービスを廃止することもあり得るわけです。

 そのとき、地方自治体や住民にとっては、はしごを外されたようなことになりかねないのです。

 1995年にインターネットの商用利用が始まって以降、ICT技術は飛躍的に向上し、グローバル化の促進など、社会の構造すらも変えてきました。地方自治体のサービスのデジタル化は私たちの生活の利便性も向上させています。

 しかし、それを推進する主体は民間企業なのです。LINEの問題は、そうした民間企業に自治体や行政が依存していることをあらためて認識させました。

 今後も発展していくICT技術を、社会としてどう活用していくのが良いのか、しっかりとした議論をする必要があるのです。

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