2024.03.21
増える、ひとり暮らしの高齢者が楽しい生活をおくるには
岡部 卓 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授>>英語版はこちら(English)
2019年4月、「国立社会保障・人口問題研究所」が、世帯主が65歳以上の世帯は、2040年には全国で220万世帯を突破し、そのうち1人暮らしが占める割合は30%を超えるという発表を行いました。高齢者の単独世帯が増えることは、日本社会にどのような影響を及ぼすのでしょう。
高齢者の在宅介護は難しくなってきた日本社会
社会保障制度というと、国が運営する制度というイメージをもつ人が多いと思いますが、日本の場合、「家族」、「地域」、「職域」が中心となる構造でした。
実は、社会保障制度や福祉制度は、国によって構造が大きく異なります。
例えば、北欧諸国は社会民主主義的型です。すなわち、国が社会保障や福祉活動の中心になりますが、その分、税は高負担になります。
ドイツ、フランス、イタリアなどは保守主義型と言われ、企業、労働組合、国家、家族が、労働者家族を支えていく構造です。
イギリスやアメリカは自由主義型です。市場を重視し、そこで対応できない場合に国家が行います。自助型が中心になります。
日本は伝統的に、血縁、地縁と言われる「家族」と「地域」が支え合いの中心を担ってきました。
そこに改革が起きるのは戦後です。GHQによって、社会保障制度が導入されるのです。
もっとも、アメリカ自身は自由主義型であり、リベラル思想をもつニューディーラーと呼ばれる人たちが、アメリカで果たせなかった理想を日本に持ち込んだという側面もあります。
その結果、アメリカでは実現していない、国民皆保険や国民皆年金制度が、1960年代の前半には完成します。
さらに、労働組合の活動が活発になり、企業別組合が労働者の生活を守ることを前提とした社会保障制度も確立していきます。
つまり、戦前の日本社会にはなかった社会保障制度が、戦後できあがっていったのです。
一方、日本の伝統である血縁や地縁の支援がなくなってしまうこともありませんでした。特に、高齢者介護や、出産・育児支援、また、障がい者支援などは、家族を前提で考えられました。
そのため、新たな社会保障制度と、伝統的な支え合いが混在する構造となったのです。
ところが1970年代末になると、人口の増加とともに高齢化の兆候が現れ始め、公的保障の負担を軽減する意図もあり、高齢者の扶養・介護は、家庭責任を強調する政策がとられます。要は、家族に社会保障の代替機能をできるだけもたせようとするものでした。
しかし、一方で、人口の大都市集中が進行し、都市部は核家族化が進み、地方は過疎化が進みます。すると、在宅介護の基本である家族規模とりわけ三世代家庭は減少し、さらに、縮小する住居では、そもそも在宅介護を行うことなど無理になっていきます。
その傾向が進んだ現在、2040年には、65歳以上が世帯主の世帯が、全世帯の40%を超え、そのうち単独世帯は30%を超えるという「国立社会保障・人口問題研究所」の発表で、在宅介護の基盤がなくなってきていることが、数字ではっきり示されています。