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世界では、インターネットを快適にするための規制が始まっている

湯淺 墾道 湯淺 墾道 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授

便利過ぎるアナログを手放す必要を考える

 実は、日本社会は世界と比べて非常に独特なゆえに、デジタル化が進まないように見えます。

 例えば、選挙の投票において、電子投票やオンライン投票がなかなか導入されません。それは、従来のアナログの投票方式が、世界では稀なほど問題が少なく、上手く運営されているからです。

 例えば、私はJICA(国際協力機構)の活動で、途上国の人たちに選挙管理運営の講義をしたことがあります。すると、投票所に警察官を配置しなくて良いのかとか、投票箱を透明なものにしなくて良いのか、といった質問をされて戸惑ったことがあります。

 つまり、海外では、投票所が襲われたり、不透明な投票箱では不正が起きることが多いのです。

 実際、投票の前日には飲食店で酒を出すことが禁止されている国もあります。支持者ごとに集まって酒を飲み、酔って暴徒化するからです。また、投票所は大行列で、投票まで1~2時間かかるといった国もあります。

 要は、世界では、投票を人が管理運営するより、電子投票やオンライン投票にする方が便利で安全で、なにより信頼できると捉えられているのです。すでに、アメリカ、インドやネパール、ブラジルなど、様々な国で導入されています。

 2005年に、地方議会選挙において世界で初めてオンライン投票を導入したエストニアでは、年々、利用者が増えており、大きな問題やトラブルも起きていません。

 逆に、日本では、オンライン投票を導入する積極的な意味がないと感じられているわけです。

 しかし、一方で、国政選挙でも投票率が50%を下回っているのは大きな問題です。有権者が投票所に行くという手間のかからないオンライン投票によって投票率が上がるのであれば、それは導入する価値があると思います。

 オンライン投票の問題点として、通信障害や停電のリスク、投票記録の書き換え、投票所という、いわば監視の目がないことによる買収や強要、二重投票やなりすまし投票などが指摘されますが、現状の投票に比べて著しくリスクが高まるとは考えられません。

 また、いまのICT技術やマイナンバーのシステムを活用すれば、それほど大きな問題が起こることはないと思います。実際、世界の多くの国では、そうしたシステムを活用して上手く実施しているのです。

 むしろ、投票所に行くことが、困難になっている高齢者や、面倒と思っている若い世代、また、天候悪化時などは、はるかに投票がしやすくなります。また、在外投票や、不在者投票にとっては非常に便利になります。

 特に、地方から都内の大学に入学した学生の多くは住民票を移していないと思います。2016年に選挙権年齢が18歳に引き下げられたときに、大学構内などにも選挙の呼びかけのポスターがずいぶん貼られましたが、それで、投票のために地元に帰る学生がどれほどいたでしょうか。

 あるいは、不在者投票をしようと思っても、それは、非常に面倒な手続きが必要なのです。

 投票率の低さにもっと危機意識を持てば、投票しやすいシステムの導入にももっと前向きになるはずです。

 要は、利便性の高さによってSNSのインフラ化が進んだのに比べ、積極的に導入する必要が感じられない分野においてはデジタル化が進んでいないということです。

 しかし、少子化が世界で最も早く進んでいる日本で、現状の公共サービスやシステムがいつまで維持されるかわかりません。しかも、維持できなくなって、慌ててデジタル化を進めようとしたとき、世界のルールや基準は大きく変わっているかもしれないのです。

 動きが始まっているインターネットの世界標準作りに歩調を合わせられるようにするためにも、実は、日本の良さでもある便利過ぎるアナログを、いま、手放す必要があるのかもしれません。

 今回のLINEの問題や、オンライン投票をはじめとした電子システム導入の遅れを考えると、日本が後進国になるような危機感を、もっと持つべきなのではないかと思います。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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