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がんを分子レベルで早期診断するシステム開発が始まっている

石原 康利 石原 康利 明治大学 理工学部 教授

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がんの早期診断方法として、分子イメージングという技術があります。体内の分子レベルの動きを画像化する技術ですが、そのなかで、磁性ナノ粒子イメージングの開発に期待が高まっています。日本では、その研究の最前線にいるのが本学の研究室です。

がん診断の期待が高まる磁性ナノ粒子

石原 康利 現在、がんなどの疾病を画像診断する方法としては、X線CTやMRIが一般的です。これらは、写したものの密度の差を、コントラストで表します。近年では、画像の分解度が非常に高くなり、1mmより小さいものまで写し出すことができるようになっています。

 ところが、それを見る私たちの肉眼は、1mmのもののコントラストを識別するのは難しく、がんの腫瘍の場合、1~3cmくらいの大きさでなければ見つけることは困難なのです。

 そこで、近年、分子イメージングという技術が開発されています。例えば、がんを調べる場合は、がん細胞に集まりやすいように細工したトレーサーと呼ばれる物質を体内に投与し、それがどこに集まっているのかを確認することでがんを発見する技術です。

 このトレーサーに用いられるのがナノ粒子です。ナノとは100万分の1mmという大きさの単位で、通常、100ナノよりも小さい粒子がトレーサーとして各国で研究されています。

 磁性ナノ粒子とは、鉄の一種を素材に用い、文字通り、磁石の性質をもったナノ粒子です。

 この磁性ナノ粒子に、がん細胞に集まりやすい特性をもった物質をまとわせます。それを溶液にして、静脈注射で体内に投与します。体内をめぐる磁性ナノ粒子は、まとった物質の特性によって、がん細胞に寄っていきます。

 通常の細胞は、異物が入ってくると、それを流し出そうとするのですが、がん細胞は異物を流し出す機能が不活発で、そのため磁性ナノ粒子はがん細胞に溜まっていくのです。

 そこで、体外から、磁性ナノ粒子が集まっている場所を検出すれば、がん細胞の位置がわかるということになります。

 つまり、がん腫瘍が1cm以上の大きさにならないと発見が難しい画像診断に比べ、細胞レベルで早期にがんを発見することが可能になるのです。

 実は、分子イメージングには、磁性ナノ粒子だけでなく、放射線を放出したり、蛍光を出す特性をもった物質のナノ粒子をトレーサーに用いる技術もあります。ところが、それぞれに課題があるのです。

 放射線を出す物質の場合は被曝の問題があります。蛍光物質の場合は、身体の表面近くでなければ検出が難しくなります。

 その点、磁性ナノ粒子の場合、使っている磁石はMRIで使っている造影剤とほぼ同じもので、被曝のような問題はありません。また、検出についても、体外から磁場をかけて調べるので、磁性ナノ粒子が体内のどこにあっても検出することが可能です。

 つまり、磁性ナノ粒子はほかのトレーサーに比べてメリットが多いのです。しかし、やはり課題があり、実用化に至っていないのが現状です。

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