
2022.07.07
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考えただけで機械やロボットを動かすブレイン・マシン・インターフェース(BMI)は、未来の技術として注目されてきましたが、近年、長足の進歩を遂げています。特に、医療の分野での研究が盛んで、本学でも、運動麻痺のリハビリに応用する研究が進んでおり、2025年問題の対応策のひとつとして期待されています。
人がなんらかの活動をしようとするとき、脳の特定の部位が活動することは、神経科学の分野で解明されてきています。
例えば、手を動かそうとするときには、手の運動をコントロールしている脳の運動野と呼ばれる部位が活動することがわかっています。
逆に言えば、その部位の活動を計測すれば、この人は手を動かそうとしていることがわかります。すると、例えば、脳活動計測器とロボットアームを繋げば、人は、自分の手を動かすような感覚でロボットアームを操ることも可能になるわけです。
この技術の応用研究は様々な分野で進んでいますが、私たちは、運動障害のある患者さんのリハビリテーションに活かすための研究を行っています。
例えば、脳血管障害、いわゆる脳卒中の発症数は年間29万人で、その多くが運動障害などの様々な後遺症を発症します。そのため、寝たきりになる原因の第1位(約4割)であり、その年間医療費は1兆8085億円に達し、年々増大する傾向にあります。
なぜ、脳の障害により運動障害が起こるのかというと、手を動かすための脳からの指令を運動野から出せなくなったり、手の筋肉に伝わらなくなっていることがあるからです。
それは、脳卒中により脳細胞の一部がダメージを受けて死んでしまい、脳の指令を伝える経路が途切れた状態になってしまうからです。これは、もうどうしようもないかというと、実は、そうではありません。
例えば、東京駅から新宿駅に行こうとして中央線に乗ったものの、途中の御茶ノ水駅で事故が起きて電車が立ち往生したら、私たちは地下鉄に乗り換えたりして新宿駅に行こうとするでしょう。
あるいは、中央線が止まっていることがわかっていれば、最初から山手線で新宿駅まで行こうとします。最短のルートより時間がかかりますが、目的地には着けるわけです。
脳の回路も、この都内の路線図のようになっているのです。いつもの経路が途切れても、別の経路で指令を伝えることができるのです。
しかし、路線図を見て判断できる電車と違い、脳の回路は見ることができません。
そこで、セラピストが患者さんに一対一でつき、手が動くきっかけを試行錯誤して探し、それがわかれば、そのやり方を繰り返して自分のものにするリハビリテーションが行われます。それが、新しい経路をつくり出す方法なのです。
そこに、BMIが大きな役割を果たすことができると、私たちは考えたのです。