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便利なロボットは人の不便から生まれる

加藤 恵輔  加藤 恵輔  明治大学 理工学部 専任講師

人のやりたいことを支援するロボット

 実は、ロボットの価格を下げるために技術水準を下げてしまうと、人は不満を覚えるのではないかと言えば、決してそうとは限りません。

 例えば、私たちの身近で普及しているロボットとして、お掃除ロボットがあります。このお掃除ロボットが面白いのは、これを使っている人はずぼらな人ではなく、むしろ、おしゃれな人が多いことです。

 つまり、お掃除ロボットに完璧な部屋の掃除を求めるのではなく、むしろ逆に、このロボットがちゃんと動けるように、障害物になるようなものをあらかじめ片付けておくような人なのです。

 このことは、人は、なんでもできる完全なロボットを常に求めているわけではないのではないか、ということを開発者に気づかせてくれます。つまり、人は、すべてのことを任せてしまいたいのではなく、自身のやりたいことは自らしたい、という欲求があるのではないかということです。

 だとすると、ロボットに求められるのも、すべてを完全自動でこなすことではなく、人の、自らしたいという欲求を支援することではないか、と考えられます。

 つまり、人とロボットには役割分担があり、人はそれを嫌がるのではなく、むしろ、それを望み、受け入れるのではないかということです。人がお掃除ロボットのために部屋を片付けるのも、その一例ではないかと思います。

 さらに、このことを強く実感できるのが介護やリハビリの分野です。

 例えば、高齢で体が思うように動かなくなった人や、体に障がいを負ったような人たちは、そういう人たちのための特別な道具を使うより、自分が健康だった頃に使っていたものや、いわゆる健常者が使っているものを使いたいという意思があるといいます。つまり、難しくても、できるだけ自分の力でやりたいのです。

 すると、求められるのは、やってあげてしまうことより、手の開閉とか、腕の曲げ伸ばしを支援してくれたり、腕をちょっと吊って重さを支えてくれる除荷のサポートであったりするわけです。

 例えば、寝た状態で体を起こせない人が、手の届かないテーブルに置いてあるカップを取りたいとき、介護している人に頼めばすぐに取ってくれます。

 でも、自分で操縦できるアームがあれば、たとえ1分くらいかかったとしても、自分で操作してカップを取れば、満足感を得られるのではないでしょうか。

 だとすれば、20年後の完成を目指して、介護を一貫して行えるような万能ロボットの開発を目指すことも重要ですが、いま、アームを簡単に操作するだけの仕組みがあれば、それも役に立つということです。実は、そうしたニーズは様々にあると思います。

 すなわち、ロボットの形態については汎用型の開発を目指す一方、多様化も必要で、利用分野によって程よく簡素化され、必要な形態のロボットが多種多様に開発されることも必要であると考えています。

 もちろん、簡素だから開発も簡単というわけではありません。例えば、モータを少なくしようとすれば、そのための工夫が必要になります。例えば、小出力のモータで大きな力を出すための減速機構原理の研究も、私たちの取り組むテーマとなっています。

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