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ロボットがやわらかくなると社会が変わる!?

新山 龍馬 新山 龍馬 明治大学 理工学部 准教授

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近年、ロボットやコンピュータの発展はめざましく、工場などでは産業用ロボットが欠かせない存在になっています。一方で、街中や家庭でロボットを見かけることはほとんどありません。その課題を解決していくロボットの未来形として、やわらかいロボットが期待されています。

ロボットの安全性を高めるやわらかなロボット

新山 龍馬 やわらかいロボットの開発は、ここ10年くらいの間に急速に進み、いま、非常に注目されている分野です。

 やわらかいロボットとは、従来のロボットが金属でできていて硬かったことに対して、やわらかい素材でできているという意味で言われています。

 例えば、産業用ロボットのロボットアームは人の腕のような働きをする機械ですが、いわば、金属でできた剥き出しのガイコツです。そこに、筋肉の代わりとなる電気モーターが付いていて動くわけです。

 それに対して、やわらかいロボットが目指しているのは、例えば、人間のように肉で覆われた形や、タコやクラゲのように、骨がなくやわらかい体そのもので動くようなやり方なのです。

 では、なぜ、そのようなやわらかいロボットを作る必要があるのかと言えば、硬いロボットでは難しかったことができるようになるという期待があるからです。

 現代では、工場などで産業用ロボットが大活躍しています。それは、ものづくりの組み立てや溶接などにおいて、素早く力強く、そして正確に作業ができ、生産性を飛躍的に高めることができるからです。その意味では、産業用ロボットは現代では欠かせない存在になっています。

 一方で、実は、危険な存在でもあります。例えば、稼働中のロボットアームに人がぶつかると、大けがをする恐れがあります。そのため、稼働中のロボットには、基本的に、人が近寄れないようになっています。

 なので、人とロボットが近い距離で一緒に作業することや、ロボットに不具合が起きたときに人がすぐにサポートすることは難しいのが実情です。

 すると、ロボットに任せられる作業とは、ロボットだけで完結させることができる作業に限られてくることになります。

 ところが、人にはできてもロボットには難しい作業が、実は、意外と多いのです。

 例えば、お弁当箱に食材を詰める作業はロボットではできないため、人が行っています。それは、大きさも硬さも様々な食材を潰さないように取り扱い、美味しそうに配置していく必要があるからです。

 例えば、ふっくらとした卵焼きをロボットが崩さないように取り扱うためには、それ専用のロボットハンドが必要になります。しかし、そのハンドでは、おそらく、他の食材を上手に取り扱うことはできません。

 実は、人が様々な食材をすべて上手に取り扱えるのは、指の腹がやわらかいことが大きな要因です。

 実際、金属でできたロボットハンドにやわらかい素材を付けることで、できなかったことが上手くできるようになった事例があります。こうした事例も、やわらかいロボットが注目されるようになったきっかけのひとつです。

 また、食材をおいしそうに、無駄なく詰めるには、やはり、人の支援が必要です。

 つまり、おいしそうなお弁当をつくりつつ、人の労力をなるべく少なくするためには、人とロボットが近い距離で一緒に作業する必要があるわけです。そのためには、ハンドがやわらかいだけでなく、ロボット全体がやわらかいことも重要になってくるのです。

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