
>>英語版はこちら(English)少子化は、いまの日本の社会問題になっています。その原因は様々ですが、不妊症もその原因のひとつと言われています。ところが、その治療法は限られているのが現状です。それは、妊娠(体内受精)のしくみが完全に解明されていないからです。本学でも、体内受精のメカニズムを解明するための研究が行われています。
まだ解明されていないことが多い体内受精のメカニズム
受精や発生のしくみは、多くの人が中学や高校で習い、知っていると思います。確かに、生命が発生する研究の歴史は古く、多くの人が知っている現象です。
でも、その現象が起こるメカニズムについては、すべて解明されているわけではありません。
まして、私たち哺乳類の体内で起きている受精や発生のしくみは、まだまだ、わかっていないことが多いのです。
なぜなら、体内受精とは、メスとオスの要因が複雑に絡むイベントであり、そのすべての工程を顕微鏡下で確認することができません。つまり、解析が非常に難しい、秘められた現象なのです。
妊娠の流れは、メスの体内に入った精子が排卵された卵子と出会い、上手く受精に成功すると受精卵となります。その後、受精卵が子宮に着床すれば妊娠が成立します。
例えば、この着床ひとつとっても、実は、とても不思議な現象です。
卵子が受精卵になると、それは母親とは別個体、すなわち母親にとって非自己の細胞になります。それが母体の子宮に接着し、母親の胎内で成長していくのですから。
自分と自分ではない細胞が繋がるというのは、非常に特別なことです。普通の解釈では難しい現象です。
そもそも、この子宮が不思議な臓器です。例えば、女性には月経があります。それは、この子宮内膜が月に一度、剥がれて落ちることによって起こることは、普通のこととして知られています。
しかし、もし、手の甲全体において皮膚が剥がれ落ちるほどの大けがをしたら?
そして1ヵ月後にきれいに戻り、再び剥がれ落ちる・・・ということを繰り返したら?
かすり傷のレベルでは済まないと、容易に想像できるはずです。つまり、子宮内膜には皮膚には無いような特殊な再生システムがあるだろうと予想されますが、そのしくみも解明されていません。
さらに、着床や受精の前の現象である、精子が卵子に出会うことも、実は、不思議な現象です。
メスにとっては、精子は、やはり非自己の細胞であり、それが体内に入れば、免疫の対象となるはずです。
実際、ヒトの場合、精子が女性の体内で生きていられるのは3~5日程度で、一度の射精で約3億の精子があると言われますが、ほとんどは途中で死んでしまい、卵管を通って、最終的に卵子にたどり着くのは200個ほどです。
逆に言えば、女性の体内に入った精子は、なぜ、3~5日も生きていられるのか、実は、これもまだわかっていません。いま、私の研究室で取り組んでいるのは、このメカニズムの解明です。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。