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2019.11.20

ゲノム編集で不妊症の原因を解き明かす

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精子を守るタンパク質を新発見

 私たちの研究において非常に重要な実験が、遺伝子改変動物を使っての実験です。近年、ゲノム編集の技術革新によって、遺伝子改変動物による実験は格段に身近な実験方法になりました。

 例えば、ある分子Aが受精に重要、という仮説を立てます。そこで、ゲノム編集により、Aをコードする遺伝子をノックアウト(切断)し、Aを持たないマウスをつくり、観察するのです。もし、このマウスに子どもが生まれてくれば、分子Aは必須ではないということになりますし、子どもが生まれなければ、とても重要だということが分かります。

 いま、私が注目しているのは、オスが出す精液の中の精子以外の液性成分です。この成分の中のタンパク質が、受精になんらかの機能を果たしていると考えたのです。

 そこで、このタンパク質を欠損させたマウスをつくり、観察したところ、仮説通りに子どもができませんでした。

 なぜ子どもができなくなるのかを追求していったところ、思ってもいなかったことなのですが、メスの体内で死んでいる精子が非常に多いことがわかりました。

 この結果から、私たちが注目した精液中のタンパク質は受精に直接関与しているのではなく、メスの体内で精子を守る役割があることが分かりました。

 つまり、精液中にあるタンパク質が精子を守ることで、精子はメスの免疫によって排除されずにメスの体内で生存することができる、というしくみがあるのです。実は、これは新しい発見でした。

 マウスの実験でわかったこのしくみが、ヒトにも同じようにあれば、新しい不妊治療法を行える可能性があります。

 いまの不妊治療では、精子と卵子の状態や、女性の体が妊娠可能か調べますが、精液中のタンパク質や、女性の免疫力は調べません。

 もし、精液の中にある精子を守るタンパク質が少ない、あるいは、女性の免疫力が強くて精子が短時間で死んでしまうことが受精しにくい原因であるとわかれば、より的確な治療が行えるようになります。

 例えば、人工的につくったこのタンパク質を、女性の体内に精子と一緒に入れれば、精子は女性の免疫から保護されて卵子にたどり着き、受精する確率が高まるかもしれません。

 いまは、マウスでの実験結果しかありませんが、今後は、臨床実験が行えるような共同研究を進めていきたいと考えています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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